上毛町です。またもや時をちょっぴり遡り、カナダでオーロラハントしに行く前日譚。
そう、カナダへ旅立つ前の日は、福岡に居たんです。
* * *カナダへ旅立つ前々日。
昨年、田舎暮らしの新しい関わり方として、「ワーキングステイ」という試みを実施した、福岡県は最東端の田舎・上毛町。
私も、東京ナイロンガールズとして1ヶ月弱滞在し、いろいろな価値観を考え直したりしました。
そんな戦友(?)ともいえるメンバー(の一部)が呼び出され、夏に集合したのです。
福岡空港から博多駅まで地下鉄で向い、そこから車でピックアップして頂き、走ること約3時間。
宿泊先は上毛町の「大池公園ふれあいの里ログハウス」
到着すると、地域の方達がバーベキューを用意してくださっていました。
中央に鎮座しているのは……鹿のもも肉! もちろん、ジビエ。
前回の滞在時は撃った鹿を川で血抜きし、内臓を除き、皮を剥ぎ、首を落とし、骨と肉とに分ける解体作業も見学させてもらった。
あの時の、「シシ神さま」のような何も見ていないのに、全てを見透かしてるような、落とされた鹿の首の目が脳裏をよぎる。
目……め……めちゃめちゃ美味しかった!
久しぶりに会ったみんなや町の方たちとの話は尽きず、しかし我々が招集された「本番」は翌日の打ち合わせ。
大人しく眠って、迎えた素晴らしい朝。
冷暖房、テレビやシャワーも完備した快適なログハウスで、かつての(といっても1年前だけど)の仲間たちと、家族のように迎える朝。
福岡在住のクリエイター夫妻、村上さん(デザイナー)の妻、パトリシアさん(コーディネーター)がコーヒーを淹れてくれた。
壁紙のようなすてきなすてきな朝。
ノラ美猫がめちゃくちゃひとなつっこく。
突進してくる。
手前から、京都在住のコーダー「メガネと、」のタカハシさん、前出の「Piton ink.」村上さん、加計呂麻島在住の小説家三谷晶子さん。
三谷さんは東京生まれで、昨年のワーキングステイでは「東京ナイロンガールズ」のメンバーとして参加したんだけど、この田舎暮らしをきっかけに東京で暮らす理由に疑問を持ち、今年の1月から奄美大島近くの島に移住しちゃった。
それぞれの何かを揺さぶる上毛町だね。
私はこの大池公園に前から興味があったので(その時の日記)、今回宿泊できて大変うれしく、「大池」をぐるっとさんぽしてみた。
散歩道の始まり。木のアーチ。
カナダにはこれから行くんだけど、まるでカナダみたい、何て思いながら。
ちなみに、このさんぽを終えて興奮気味のところ、三谷さんに遭遇し、めちゃめちゃワクワクした1枚目の木のアーチまで三谷さんを連れて行ったら想定外の無反応で、バンドなら方向性の違いで解散だなって思ったよ。
で、今度は場所を移して「こうげの食卓 もくもく」へ。
ここは上毛町でとれた食材やジビエを使ったお料理が楽しめるレストラン。
この夏は、「かき氷丼」を発表してちょっと話題になったところ。
季節はまだ残暑残る8月下旬。
もしかして、朝ご飯は「かき氷丼」では……と期待と畏怖が交錯していると……
地元ではおいしい卵と有名な「ケンちゃんファーム」の目玉焼きと、ウィンナーと、シャケと……左のころりとしたのは猪(ジビエ)を煮付け。
ホッとしたような、残念なような。
上毛町のプロデューサーbunboの江副さんも到着し、みんなで朝ご飯。
(良く見ると江副さんの前にリスが並んでる!)
友達のような、戦友のような、家族のような、隣人のような、赤の他人。
不思議な距離感のみんなとワイワイ打ち合わせして、それの端っこは、きっと10月15日頃になにか発表出来るかもね。
で、主用が済みみんなで福岡市に戻り、夜は懐かしいメンバーをもうひとり呼び寄せてご飯を食べ、
あるものは帰り、あるものは飲みして、私も福岡泊をした。
日付けは8月30日。
福岡県には台風が近づいていた。
といっても直撃ではない。
飛行機は飛ぶはず。
いや、飛んでもらわなくちゃまずい。
なぜならカナダ出発は8月31日なのだ。
日本に居る間に書かなくちゃいけないブログを書いたものの、ホテルの回線が遅すぎる。
3Gより遅いwifiしか飛ばせないようなホテルは「ビジネスホテル」を名乗るな!
ええーい、これじゃ仕事のデータが飛ばせないじゃないか。
翌朝、カナダ行き当日の8月31日。
「ゲリラ豪雨」と呼ぶに相応しい雨の中、福岡在住の友達デザイナーの小室氏に仕事を引き継いでもらうデータを渡すために移動する。
「データを渡すために移動」って。4Gくらいのものなのに!
豪雨には傘なんか全く役に立たず、
十昔くらい前のエドウィンのCMよろしく「パンツの中までびしょ濡れだ」状態になってなんとかUSBを渡し、福岡空港へ。
早めに、第一ターミナルの「ロイヤルコーヒーショップ」で昼食取りながら仕事して。
カナダ旅行用の荷物は、成田空港のコインロッカーに入れておいた。
荷物預かりサービスよりも安価だったから。
旅行用のまとまったお金などの貴重品もロッカーに入れてた。
慌ただしい福岡旅行に持ち歩くより安全だと思って。
お会計をして店を出ると、お金がギリギリだったのでびっくりした。
成田のフライトは17時。
福岡出発は13時。
福岡・成田間は2時間で着く。
大丈夫。
間にあう。
間にあうはず。
しかし出発ロビーは人で溢れていた。
本当に「ゲリラ豪雨」だったみたいで、すでに雨は上がっていたのだが(あんなにびしょ濡れになったのにそれもムカつく)大雨の影響でピーチが3時間も出発が遅れていたのだ。
私が載るのはジェットスター。
まずい。
ANAも頭を下げて、遅延を詫びている。
まじでまずい。
「成田のフライトは17時」
「福岡・成田間は2時間掛かる」
今は13時。
つまり、ピーチみたいに3時間も遅延したら、アウト。
実は1年前のワーキングステイを終えて東京へもどる、福岡・成田間でもジェットスターを使ったのだが、札幌の大雪の関係で私が乗る予定の飛行機が欠航した。
再購入かと焦ったところ、当時不祥事を起こした直後だったジェットスターは異例の無料乗り換えをしてくれて、1時間ほどの遅れで東京に戻れた。
でも今は不祥事直後じゃない。
ピーチは3時間遅れている。
ジェットスターのスタッフが出てきて頭を下げた。
「当機の運行が悪天候のため遅れておりますことを、深くお詫び申し上げます」
いよいよまずい!
(脳裏で出川大合唱!)
変な汗が出る。
ーーーいいさ、カナダ行きの飛行機に間にあわなかったら買うさ、買えばいいんでしょ。
ーーーそんな金あるかー!
ーーー観光局の方が待っているのにイキナリの失態!
変な汗が順調に流れる。
こりゃ一応進捗を報告しなければと、カナダ行きをサポートしてくれるスタッフの安藤さんに連絡を取り、状況を伝える。
説明すればするほどに、状況が整理され余計焦る。
1時間遅れ、1時間30分遅れ、もうだめかと思われた頃、「大変お待たせ致しました、出発の準備が整いました」と福音が鳴り響いた。
飛行機に乗り込み、ひとまず安堵しながら、成田に着いた後の行動をシュミレーションする。
ジェットスターの到着は第二ターミナルなのだ。
一方、エアカナダは第一ターミナル。
荷物をピックアップして、バスに乗って移動して、第一ターミナルへ行って……
脳内で風景を再生させながらハタととある映像に気がついた。
それは荷物を預けているコインロッカー。
第二ターミナルの出発ロビーの片隅。
白くて最新式のパネルのコインロッカーは暗証番号で開く。
暗証番号が書かれたレシートを確認する、持ってる。大丈夫。だけど……
瞼を閉じてもう一度映像を再生する。
私のカナダ行きのキャリーバックが入った大きなコインロッカーの扉。
きっと、そうきっと、赤いランプがついている。
そう、……超過料金!
ふと瞼を開けた。
それはある映像がフラッシュバックしたから。
それは福岡空港のレストラン「ロイヤルコーヒーショップ」でお会計を済ませた時の、財布の映像。
ーーーお会計をして店を出ると、お金がギリギリだったのでびっくりした。
そう、確か、紙のお金がなくなちゃってて、びっくりしたんだ。
慌てて財布を確認する。
超過料金は確か500円。
紙のお金でなくてもいい。
百円玉が、あればいい。
小銭入れの中に、何枚かの銀色のコインを確認出来た。
5枚ある!
しかし……、2枚50円玉やーーーーーーー!!!
何っこのっ面白展開!
銀行のキャッシュカードは必要ないと思って家に置いてきてしまったし、
(そもそも乗り継ぎの時間がなさすぎて、のんきにATM探してる場合じゃなさそうだけど)
クレジットカードも現金もコインロッカーの中だ。
ここにあるのはSuicaとナナコカードくらい。
くっそ、くっそ、100円が足りないっ!
何度、確認、しても!
ロッカーの中には、お金があるのに!
また変な汗出てきた。
うう、どうしよう。だれかに借りる?
いやいやいや、避けたい。それだけは損してでも避けたい。
私に使える切り札はSuica(とナナコ)だけ。
そう、電子マネーなら決算できるのだ。
ーーーどうしよう、缶ジュースの自動販売機の前に張って人を呼び止め、ジュースを買い100円だけもらうとか。
ーーーそうだ、コンビニで張って「支払いは私がするので100円ください!」と超好条件のディスカウントを提案する。
それだ!
キオスクみたいなのくらいあるはず。
飛行機が成田に着き、ケータイを確認すると先にチェックインを代行してくれようとする安藤さんからメッセージが来ていた。
飛行機から降りつつ、チケット番号を過去のメールからほじくり返し転送、パスポートはロッカーの中だけど、過去に送ったPCメールに残ってるかも、と滑走路を走るバスの中からMacBook Airを開けメールをほじくり返し、PCの画面を見ながらiPhoneで打って送って、到着ロビーを抜け、エスカレーターに乗り、第一ターミナルの出発ロビーに戻って、コインロッカーと対峙。
……ない。なかった。
自動販売機もキオスクも、ない!
iPhoneはメッセージを知らせる。
安藤さん「エアカナダは第一ターミナルだって知ってますよね?」
しっとるわーい!
時計を確認する、16時30分。
フライトは17時。
ああ、もう、ほぼアウトじゃね!?
えええええええええええええええい!!!
ままよーーーーーーーーーーーーー!
私は覚悟を決め、目に入ったサービスカウンターへ突き進む。
そこは手荷物預かりサービスで、飛行場に入っている委託会社のようだった。
「す、すいません」
「はい?」
そこにいたのはロマンスグレーがかっこいいナイスミドル。
フランクだが品があり、話しやすくて優しそうなのが救いだった。
「すいません。あの、実は、そこのコインロッカーに荷物を預けていて超過料金が発生してるんですけど……」
「は、はぁ」
「荷物の中にはお金があるんですが、私、いま、手持ちが400円しかなくて」
おじさんの笑顔が真顔になって行く。
「100円足りないんです。……貸してくれませんか!」
「はぁ!?」
「必ず返します、人質にiPhoneを預けて行っても良いです! ロッカーの中にはお金があるんです」
「でもねぇ、そんなの、いままで対応したことがないから……」
「そうですよね!? そうだと思います、だから、あの本当に申し訳ないです。個人的に貸してくれませんか、私に、100円を」
「ええ~!」
「実は今、福岡から来たんですけど、飛行機が遅れて、カナダ行きの飛行機出発の30分前で、じ、時間がないんです!」
我ながら手前勝手な都合を説明する。
おじさんは困った様子で一旦奥へ行き
「ホントに、これは、個人的にねぇ~、100円で良いの?」
「はい!」
そう言って私は、見ず知らずの人から100円を借りた。
「ありがとうございます! すぐに荷物を出します! iPhoneを人質に置いて行きますか?」
「いいよ」
苦笑いするおじさんに見送られ、100mほど隣のロッカーを開ける。開いた!
すぐにその場でスーツケースを開き、現金を出す。
そこには……数枚の1万円札!
1万円渡すわけには流石にいかない。
このあたりに自動販売機もキオスクもないことは確認済みだ。
バス乗り場の前なら、自動販売機があるかもしれない。
一旦建物を出て、バス乗り場の前をスーツケースを引いて探してみる。
ない、ない、ぜんぜんない。
その間にも時間は過ぎる。
安藤さんからメッセージが来た「やっぱり本人でないとチェックインできませんでした」
ーーーおじさん、ごめん……!
私は目の前に来た第一ターミナル行きの無料巡回バスに乗り込む。
時計を確認する。出発……20分前!
スーツケースを引きながら全力でダッシュする。
エアカナダのカウンター前はがら空きで、
安藤さんと、2度目ましての小原さんと、カナダ観光局の高橋さんが居た。
「良かった、間にあった!」
まるでクロークにでも預けるようにスムーズにチェックインし、みなさんが出来る限りの手を尽くしてくださったことを感じた。
身体検査もエアチケットを見せると特急で通過させてくれ、遠い遠い出発ゲートまで旅慣れた野生動物カメラマンの小原さんが先導してみんなで走る。
小原さん「エアカナダはね、結構、待ってくれませんからね」
これで間にあわなかったら2人まで巻き添えにしてしまう。
「あそこです!」
そこにはまだ行列の端っこが。
間にあった、間にあった!
列の最後に加われた時には、安堵でひざから崩れ落ちそうだった。
たくさんの人の善意でここまでこれた。
でも、旅はこれからだ。
オーロラや流氷、アザラシなどの撮影のためカナダは慣れたものな小原さんと私。
遠隔で導いてくれた安藤さんはなんと有給での参加と後で知った。
「半分仕事で、半分なんなんでしょうねー」って言ってたけどそういうことかと。
旅の始まりからいきなりお世話になった。
エアカナダの座席に座る。
まだ靴もパンツも湿ってるけどいい。
コンタクトもとってないし、化粧も中途半端に剥がれてるけど、どうでもいい。
瞼を閉じるとそのまま闇に引きずられた。
(実は風邪をひいていたので、雨にぬれたせいで多分発熱した)
その時、まぶたの裏に見えた映像は、大池公園の青い湖と三角のバンガロー、それにシルバーグレイの優しそうな笑顔だった。
(以下につづく……)