ホワイトホースでは雨によって捕獲ならなかったオーロラ。
ハンターの私たちが、向う次なる町は「ドーソンシティ」といい、かつて100年前のゴールドワッシュ時代の景観を今も保っているという。
「ゴールドラッシュ」と聞いて思い浮かべるのはなんだろうか。
私みたいな下世話な人間だと「ハンバーグ屋?」なんて連想してしまうが、歴史上「ゴールドラッシュ」と言うものが起こったということも、何となく知っている。そのイメージは金脈を求めた荒くれ者が、我先にと争うような姿だ。なんでも、その「ゴールドラッシュ」がカナダにも、しかもこれから我々が行こうと思っている「ドーソンシティ」でも起こったという。まずは「ゴールドラッシュ」について少し調べてみよう。
旅の写真は本文の下にまとめて載せたよ。
始まりは1848年、アメリカのカリフォルニアで起こった。製材工場を作るためにアメリカン川の水を使って採掘作業をしていたところ、水車のそこにいくつかの金の斑点を見つけ、それが純度96%の金だと分ったのだ。翌年には金鉱目当ての開拓者が殺到した。そして、ゴールドラッシュはその後、各地でいくつも起こった。
ヨーロッパから農民、労働者、商人、乞食、牧師までもが一獲千金を夢見て「新大陸」をめざしたと言われている。
そして、1896年。鉱夫のロバート・ヘンダーソンがドーソンシティ近くの「クロンダイク川」で魚釣りをしながら、何気なく「ゴールドパニング(砂金すくい)」を行ったそうだ。当時、各地でゴールドラッシュが起こっていたのでゴールドパニングをしたのはただの習慣というか、今で言うとスクラッチくじを引くような感覚なのだろう。そこに本当に金があったと言う、よくある、希有な話。このゴールドラッシュは川の名前をとって「クロンダイク・ゴールドラッシュ(Klondike Gold Rush)」と呼ばれたそうだ。(詳しくは平田さん、のまとめが分りやすかったです)
ドーソンシティはその拠点として栄え、一時は「北米のパリ」と言われるほどの栄華を誇り、今私がいるホワイトホースと、海からの玄関口アラスカの「スカグウェイ」も中継地点として栄えたそうだ。中間地点とは言え、ホワイトホースとドーソンシティまでの道のりは533キロ。GoogleMAPで検索すると、まっすぐ車で向っても7時間50分かかると書いてある。もっとも、21世紀の私たちは今、金塊ではなくオーロラを目指し、ホワイトホースからドーソンシティへの道のりをスタートし、クロンダイクハイウェイを北上するのだ。
朝7時。仮眠と呼べるサイズの睡眠から目覚め、天気を確認する。昨夜、夜空と私を引き離した重々しい雲は今も広がり、嘆きの雨をしたたらせている。朝食を済ませ、ホテルをチェックアウト。バスに乗り込んで9時間のドライブへ出発だ。
初めてこのバスに乗り込み座った席が、自然と各々の指定席になっており、左から順に最前列にフレッシュさん、水等の荷物、2列目に私、平田さん、3列目に小原さん、安藤さん、4列目の右に山下さん、最後列の中央にジェットさんjet.gifが座った。運転手は、もちろんトモさん。乗り込み口のドアをトモさんが締めると「プー、ピッピッ」と音がなり、ディーゼルバスは北を目指す。
深緑の針葉樹が鉛色の空に向かって剣山のように突き出している。そんな風景にも見慣れ、うたた寝をし、目が覚めても同じように空は曇っていた。まだ旅は始まったばかり、時間はある、オーロラも、きっと、見れる。そう言い聞かせて、自分をなだめる。途中、深緑の針葉樹が真っ黒な棒となって、今度は地面に刺さっているような異様な風景を通り過ぎる。トモさんに尋ねるとこともなげに「山火事ですね」と答えた。
2時間ほどして最初の「チェックポイント」に車は止まった。ここは「世界一大きくて、甘いシナモンロール」を出す店だそうだ。
小さくはないはずのログハウスが、大きな風景の中にあるせいでポツンとこじんまりして見える。店名を告げる看板もなく、ピンクと紫の花が飾られ、窓際に「OPEN」のネオンサインが光っている。デッキで歓迎してくれたのは数頭の犬たち。いかにも力強そうな大型犬も、広いところで見ると子犬のようにかわいい。
中に入るとテーブルが数台置いてある簡素なレイアウトで、ドラム缶のストーブが暖かい。シルバーグレイの4人組みが休憩をしている。ドーソンシティからの帰りで、キャンピングカーでゆっくり旅しているそうだ。「ここのシナモンロールが大好きなの」とメガネのおばさまが微笑む。
奥から白いヒゲとまんまるのお腹を揺らしたちょっと強面のおじさんが現れた。えっ、このおじさんが作ってるの? 甘いものをつくっているって言うだけで、いい人なような気がしてしまう。
大きなシナモンロールを山下さんと平田さんがケーキのように7等分してくれた。バスに乗り込んで、シナモンロールを頬張る。甘い。少しカリッとした外側のパン生地にかじりつくと、いくつもの層になった部分からシナモンの香りが抜ける。シンプルな砂糖の甘みが美味しい。代わり映えのしない曇り空も、少し明るくなった気がした。
うたた寝している間に次の「チェックポイント」についた。私の血糖値には関係なく、実際空は少し明るくなっている。到着したのは「カールマインキャンプグラウンド」。ドライブの中継地点でもあるが、カヌーのキャンプ地としても重要な場所だそうだ。手書きのメニューの看板に囲まれたカウンターからチーズバーガーを頼み、出来上がるまでユーコン川を覗きに行った。まだ少し小雨もパラつくが、青空がのぞいている。なんだか久しぶりの晴れ間な気がする。
イカダのような簡素な船着き場。目の前をゆったりと流れるエメラルドグリーンのユーコン川。深緑の針葉樹が永遠と続き、遠くには山が霞む。なんてことない。川と、林と、山がある。それだけ。それだけが、ただ大きくて、青い。
思わず深呼吸せずにはいられない。
ランチは雨天用のロッヂでいただいた。「大きな小屋」と呼ぶのが相応しく、大きなキャンピングテーブルが何台も置かれ、入口のカウンターにケチャップ等がまとめて置いてあった。お客さんは私たちだけ。混雑とも無縁の静かで質素なランチ。ジェットさんが注文したポテトがやたらと黒くてひねくれてて、なんだか笑ってしまった。
またバスに乗り込み、北を目指す。さすがに9時間のドライブは長い。道は舗装されてはいるが、道のせいなのか、バスのせいなのか、ガコンガコンと車体は小刻みにスキップをする。私は久しぶりの晴れ間を見逃さないようによく見た。やっと見つけた晴れ間。もう逃げて欲しくない。林に囲まれるだけだった風景も変化が付いて来た。少し高いところを走っているようだ。木々の間から時々地平線が見える。それでふと気がついた。車に酔ってない。いつもだったらこんなに揺れる車だと、目も開けていられないほど気持ち悪くなっているはず。広い空と地平線を望めれば、酔わないんだなと知った。
天気は順調に晴れ間を保ち、車は「ファイブ・フィンガー・ラピッズ」と言うところへ着いた。なんでも雄大な景観が望める場所だそうだ。ユーコン川にあった5つの小島がまるで大きな手のように見える場所らしい。車を降りるとかなり高い位置にいることが分った。木製のデッキに手を掛け、眼下に横たわるユーコン川を眺める。置くから手前へ、大きく右にカーブする青い川は、目の前に実在するなんて信じがたい。触れられないから、現実感が全く感じられない。何度カメラのシャッターを切っても、同じ風景しか撮れないけれど、この風景を目の前にしていると確かめたくて、シャッターを切った。「5本の指」は、良く分からなかったけれど、こんな景色を目にして島が「指」に見えるのだから、昔の人の想像力はすばらしい。木製のデッキは下まで続いており、ユーコン川のほとりまで行けるようだ。歩いて行ったら、いったい何時間かかるのだろう。距離感が全く分らない。
途中、トモさんオススメの名もない「サケが登ってくるのが見える川辺」に立ち寄ってみたけれど、今日はサケは不在。またユーコン川に支流ペリー川が望める高台からはティファニーブルーのような川を眺め、ため息しか出ない。ドライブもいよいよ後半に突入し、小さなセルフガススタンドで給油。バスも私たちの仲間だと思った。
そんなわけで、冒険旅行の仲間はこんな感じ。
ジェットダイスケさん
……プロビデオブロガー。バスの座席は当然、一番後ろ。
DJファンキー・フレッシュさん
……DJ兼HDRフォトグラファー。バスの座席は意外と一番前。
安藤さん
……アジャイルメディアネットワークス社員さん。バスの座席は中央の、非常口前。
小原さん
……野生動物・蛍フォトグラファー。バスの中でもPCをいじり、パノラマ写真を作り上げる超人。
山下さん
……テレビディレクター。バスの座席は後ろから2列目の道路側。
平田さん
……トロント在住のカメラマン。バスの座席は私の隣で前から2列目の道路側。
トモさん
……今回のユーコン準州冒険旅のガイドさん。バスくんと扉を操る。
バスくん
……どこにでも連れて行ってくれる。まだイラストにしてない。
コヤナギユウ
……私。バスの座席は前から2番目。本来車酔いが激しい。
バスは次なるチェックポイント「ムースクリークロッヂ」へ私たちを連れて来てくれた。
ここはこのドライブルートが出来た時からある、最古の休憩地点で長く旅人を癒してきたそうだ。そのため、木造作りの屋内はあちこち歪んでいて、それもまたウリ。敷地のあちこちには丸太で作ったムースや蚊のオブジェが置かれ、赤く縁取られた外観が旅人を歓迎し、誇らしそうだ。店内でくつろぐお客さんに写真を撮っていいかと聞くと驚かれ「俺たちがハリウッドスターに見えるのか!?」と問われたので「イエス」と答えた。
このドライブの中で一番印象的だったのが次のチェックポイントだ。名前を「グレバル湖」というらしい。きっと最高の天候が重なったんだろう。澄んだ青空にぽっかりと浮かぶ白い雲。それを完璧に映し出す鏡のような湖面に私たちは感嘆の声を漏らす。空よりも青く深く私たちを吸い込む湖面には水草が浮かび、鳥の声が遠くで聞こえる。針葉樹の林の先にはなだらかな山々がゆるやかに連なり、絶妙なグラデーションで夜の寒さを知らせてくれる。人の造詣などおよばない美しさに出会うことができた。
長かったドライブも終わりの気配を見せる。乗り込んだ時は真逆の気持ちが胸に広がる。空と木々の景色は窓の外に流れ、車の中で話し合う人はもうなく、それぞれの時間を過ごしている。こんな心地の良い時間がもう少しで終わろうとしている。
そういって車を止めた。
薄いグリーンの橋のたもと。小さな橋だとは思わなかったが、車がすれ違うことは難しそうな木造の橋だった。
トモさん「この先にトゥームストーン準洲立公園があって、明後日行きます」
トゥームストーン準洲立公園は木々の生えない極北の地特有の「ツンドラ紅葉」が楽しめる場所だ。この先に、あのツンドラが。木々が生えない風景と言うのが、ここからは想像出来なかった。
橋の先に思いを馳せていると近くの車から女性が降りて来て、おもむろにユーコン川に釣り竿を降ろす。聞けば環境調査の職員の方で、仕事でこの地へ来たそうだ。
「だけど今日の仕事は終わり。この釣りは趣味よ」
浅い川辺に立ち、釣り竿を投げ入れる彼女の姿が自然で、彼女の持っている時計と私の時計とは全く別のものなんだと思った。
私にも、こんな生き方の選択肢があるんだろうか。
ちょっと強面だけど、こんなに甘いシナモンロールを作ってくれるからきっと良い人。
ランチをしたキャンプ場兼カフェスタンド。なんとサンドイッチの他にこの店自体も売ってます。
ここが「ファイブ・フィンガー・ラッピンズ」。絶景の予感も青空も嬉しくて。
「異世界にいるなぁ、本当にいるのかなぁ」と思いながら写真撮ってました。
クロンダイクハイウェイで一番歴史のあるカフェ、ムースクリークカフェ。
こういうのに迎えられると、どうしてもPEIを思い出す。……あっちは民家の道楽だった。
「平行」と「水平」がよく分からない店内。しかも増築してて探検しがいがある。
カフェで飼われていたわんこ郎。ひとなつっこくておっとりしてた。
「クロンダイクハイウェイ」まだまだ北上します。青空気持ちいい。世界の色味が一変する。
青空の恩賜をめいっぱい受けた「グレバル湖」。どこを撮っても、何も加工しなくてもこれ。
あまりに凄いものに対峙して、笑うしかないみなさん。ジェットさんは「これは構図力が問われるよ」と良い、ファンキーさんは「やべー、シャッター切るだけで絵になるわー」
右手の乗り口の扉を操作して締めるトモさん。「ピッピッピ」と鳴る。
この先に「ツンドラ紅葉」が待っているらしい。気の背丈が低い。紅葉のピークにはまだ時期が早いかもといわれた。
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INDEX 北極でオーロラが出てるとき、南極にも同じオーロラが出ているらしい #カナダでオーロラハント 00
この日のオーロラハンターたちのブログ。
カナダでオーロラハント Day3 前半 | PHUNKYPHRESHPOST
カナダでオーロラハント Day3 後半 | PHUNKYPHRESHPOST
雲の向こうではオーロラがすごいことに: 小原玲(動物写真家)のブログ
北西カナダのユーコン準州で秋のカナダを体験中です ~ トロントで暮らすブログ
オーロラハンターたち
・DJ/HDRフォトグラファーのファンキー★フレッシュさん(Twitter|ブログ|Flickr|Flavors)
・ビデオブロガーのジェット☆ダイスケさん(Twitter|ブログ|YouTube)
・ブロガー/デザイナーのコヤナギユウさん(Twitter|ブログ|instagram)
・写真家の平田誠さん(ブログ)
・プロデューサーの山下由妃子さん
・動物写真家の小原玲さん(Twitter|ブログ)
・ユーコン準州ガイドでフォトグラファーの上村知弘さん(サイト|ブログ)
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