奇跡的に間に合った。
台風の影響で福岡から成田への飛行機が遅れ、カナダ行きの飛行機にはもう乗れないかと思った。
フライトの30分前、ユーコン準洲観光局の高橋さんと、今回の旅に私をブッキングしてくれたアジャイルの安藤さん、この旅でご一緒することになった「二度目まして」の写真家小原さんに迎えられ、チェックインに滑り込んだ。挨拶もそぞろに小走りで出発ゲートへと向かった。搭乗口のすぐそばで初対面の山下さんにも挨拶できた。
飛行機の座席に身を沈めた時の安堵と言ったらなかった。ヨカッタ、とりあえずここにいればバンクーバーには着く。目を閉じると離陸より先に眠ってしまった。
今回は日本のメディアを集めたカナダ観光局の「Japan Media Familiarization Tour」と呼ばれるものに参加させてもらった。「Familiarization」とは「慣れ親しませる」「馴染ませる」という単語で、我々がメディアという媒体となってカナダを知ってもらうのが目的で「FAM(ファム)ツアー」と呼ばれている。当然、参加者の中には初対面も多く……というか、ほぼ初対面でどのような旅になるのか旅程も含め想像出来ていないと言うのが正直なところ。
9時間のフライトの末、飛行機はバンクーバーへ。
スーツケースのピックアップが終え、やっと成田発のFAMツアーメンバーが集結した。
今のメンバーはこんな感じだ。
ジェットダイスケさん
……プロビデオブロガー。2年前の「リアルタイム・リアルカナダ」でご一緒したが対面したのは先日のオーロライベントが初。カナダ渡航は3度目。
「二度目まして」DJファンキー・フレッシュさん
……DJ兼HDRフォトグラファー。
HDRとはハイダイナミックなんたら~の略で、陰影のバランスを目で見た感動に近づける絵画的な撮影方法。初対面。
「二度目まして」安藤さん
……今回の旅に私をアサインしてくれた会社アジャイルメディアネットワークス社員さん。
前回のカナダ旅でもお世話に。真面目で気の利くナイスガイ。
たぶん5、6回目まして。小原さん
……野生動物・蛍フォトグラファー。
名古屋在住で元戦場カメラマン。打ち合わせのときお会いして以来「二度目まして」山下さん
……テレビディレクター。
小柄な女性。完全に初対面。コヤナギユウ
……私。
危うくカナダ行きの飛行機に乗り損なうところだった。英語のプロフィールには「Blogger」と書いてあり恐縮。
改めてご挨拶して、職業も年齢もバラバラなことを再認識する。この旅、どうなるんだろう。初対面同然で、こんな大人数での旅行は初めて。不安かと言えば全くそんなことはなく、ファンキーさんと小原さんは英語が堪能なことが分り、治安もよいカナダ。こんなに安全な海外旅行は初めてだ、と思った。
バンクーバー滞在は目的地「ホワイトホース」までの中継地だが一泊することになっていた。空港で大きめのタクシーを呼んでもらい、ホテルへと向かう。エコノミスト・インテリジェント・ユニットが毎年行っている『世界一住みやすい都市ランキング』で5年連続で一位に輝いた都市でもあるバンクーバー。(今年は3位)町並みをよく目に焼き付けようと、外を眺めた。
時間は午前10時。空港近くのいかにも郊外という風景から、ゆったりとした住宅街、小さなショップが連なる繁華街を抜け、大きな橋にかかる頃、眼下にはたくさんのヨットが停めてあるハーバーが広がり、反り立つガラス張りの高層ビルが私たちを迎えた。来たな、外国の大都会。タクシーの窓に額を押し付けた。
着いたホテルは長期滞在向けと思われるアパートメント型ホテル。私の部屋は12階で景色は抜群。大きなソファーが鎮座したリビングにフルキッチン、ダイニングテーブルのある温室のようなガラス張りの部屋に、バスルーム、キングサイズのベッドが鎮座したベッドルーム、入口にはウォークインクローゼットまで付いてた。
これは別に私がVIPだから用意されているというわけじゃない。FAMツアーというメディア視察だから、私たちを通して情報を得る日本の読者に「カナダの、ちょっと良いところ伝えて欲しい」と用意されているのだ。そういうわけで、今回も用意された部屋の豪華さからカナダ観光局の期待を暗に感じる。せっかく呼んでもらったんだから、しっかり伝えねば。ステキな部屋にひとりで一泊する悲しさに目を濡らしながらシャッターを押した。
「世界で一番飲茶がおいしいのはバンクーバーなんですよ!」と小原さんは目を輝かせて説明する。
なんでも、香港返還時に、名うてのコックたちはこぞってバンクーバーに移住してきたそうだ。そして「どんなにすばらしいコックを日本に呼んでも本物の『マンゴープリン』だけは、食べられない。素材になる本当に美味しいマンゴーがまず日本で手に入らない。おまけに、日本人はあの寒天みたいに伸ばされたマンゴープリンをそれだと思っているから。この店はね、世界でも有数の本物の飲茶、マンゴープリンが食べられるんですよ!」と続ける。そんなに言われたら、そのマンゴープリン食べてみたいじゃないか。
連れて来てもらったのは偶然にもホテルの並びにあった飲茶レストラン「麒麟」。
ディナータイムともなると数時間待ちだそうだが、ランチタイムも終わりかけだったので運良く15分ほどで入れた。
高い天井にシャンデリア。白金とマホガニーを基調としたハイソな店内に小綺麗な客層。私には観光客か地元の人か見分けが付かないけれど、きっと半々くらいなんだろう。
みんなで円卓を囲み、点心を頼む。
前菜のおやつのように登場した揚げ物はサクサクの細いココナッツの衣に、山芋を中華餡で包んだもので、ほっこりまろやかで軽い口当たり。もう、この時点で悶絶。もちろん、旨さのあまりね。
運ばれてくる小さなせいろに入った可愛らしい点心も、半透明の肉厚な衣が魅力的で、素材の味を活かした上品な風合い。舌が欲するままに点心を口に運んだら、お腹がパンパンになってしまった。
そこで、小原さんは不適に微笑む。
「じゃあ、マンゴープリン、ですか」
そうだ、忘れてた! もう入らないんじゃないかというお腹をさすり、せっかくだから一口くらい、というつもりでオーダーした。
マンゴープリンの到着を待つ間、小原さんのマシンガントークは止まらない。聞けばどうやら、小原さんの一番好きな食べ物はマンゴープリンらしい。好きが高じて自作し、何種類かのレシピも所有している。それでも、納得のいく出来のマンゴープリンは出来ないらしい。
「レシピはね、簡単なんですよ。マンゴーと、練乳と、コンデンスミルクと、生クリームも入ることがあるかな。卵白を少し加えるのがポイント。全部混ぜて、蒸すだけ。でもねー、出来ないんですよ。納得の出来が。点数を付けるなら75点くらい。昔、香港の中華料理屋で食べた味が忘れられなくてね。メニューにはなかったんだけど、オーダーしたら作ってるってことで食べたあの味が100点」
もう止まらない、小原さんのマンゴープリントーク。
そうこうしている間に、マンゴープリンが運ばれて来た。
小原さん「お、これは期待で来そうですよ、ちょっとね、一旦僕の前に全てのマンゴープリンを集めてね、コヤナギさん!」
コヤナギ「は、はい」
小原さん「写真撮って!」
あまりの喜びように失礼ながらかわいい人だなと思いつつ、「両手にマンゴープリン」な小原さんをカメラに収める。
さて、いよいよ待望のマンゴープリンとご対面。
こっくりとした深いオレンジ色をしたハート型のプリンにスプーンを差し込む。想像より弾力があり、スプーンを一瞬抱え込むように抵抗して、パンと弾けるように迎え入れてくれた。控えめにフルフルと揺れるマンゴーを一口含む。
濃い。
フルーツのマンゴーを10倍くらい濃縮させ、そこにコンデンスミルクの甘みを加えたような味なんだけど、コンデンスミルクの加糖な甘みにマンゴー力が全然負けてない。確かに、初めて食べる味だ。
「美味しい」
思わず口々につぶやく。
フレッシュさん「たまに入ってるマンゴー果実がヤバい」
小原さんが我が事のように満足げに頷く。
小原さん「うん。悪くないですね。65点てところかな」
コヤナギ「低っ」
安藤さん「いや、でもさっきのお話を聞くと65点でも高得点な気がしますよ」
山下さん「確かに……」
間違いなく、マンゴープリンについてこんなに考えたのは初めてだった。
コヤナギ「カナダは食べ物がおいしくていいですよね」
小原さん「そんなことないですよ! イギリス文化圏ですから、食べ物に期待しちゃいけません。バンクーバーは特別です」
コヤナギ「ええ、私が行ったプリンス・エドワード島やトロントも、食事が凄くおいしかったですよ」
山下さん「その都市だけが特別なんですって。運が良かったですね」
コヤナギ「ええっ」
小原さん「おいしい食事が楽しめるのも今日だけだと覚悟した方が良いですよ。ここからは極北ですから、素材も手に入らないでしょうし……」
昼食を済まし、FAMツアー中唯一のオフ日なのでやらなくちゃいけない事は特にない。
それぞれ明日の出発時間の確認をして、それぞれ解散となった。
私にとって初のバンクーバー。
ジェットさんとフレッシュさん、安藤さんにくっついていくつかのエリアを散歩した。
いろいろ下調べしておければ良かったんだけど、あいにく全く分っておらず。でも頂いた資料をパラパラーと眺めて、直感的に気になるな、と思っていたのは「キッツラノ(キツラノ/Kitsilano)」という、中心地から少し離れたビーチエリア。
最近人気が出てきた住宅地で、ビジネスマンや観光客の姿は少ない。このくらいの賑やかさの方が、町や人の個性が良く出てると思う。
砂浜から対岸に望む高層ビル群が味わい深い。
大木に身を寄せて海を眺め、おしゃべりに興じる人があり、愛犬をのんびり散歩させる人、ゆっくりサイクリングする人があり。すぐにこの空気感が気に入ってしまった。
ジェットさんとフレッシュさんも三脚を立て撮影に興じる。私と安藤さんはキッツラノのショッピングエリアの方へふらりと足を向けた。
なだらかな坂を挟むようにカフェから寿司バー、普通のクリーニング屋とおしゃれなブティック、インテリアショップが一緒に軒を連ねる。「バンクーバーの原宿」と称される事があるそうだが、原宿のようなティーンはあまり見かけず、お店のラインナップやゆるやかな坂に連なるインテリアショップを見て、目黒みたいだなと思った。
ビーチに戻るとジェットさんとフレッシュさんは相変わらず撮影続行中。なんだか、風景撮影って釣りみたいだなと思った。
夕飯はバンクーバーにいることを忘れそうなおいしいお寿司をいただいて(だけどロールものはバンクーバーでなければ味わえない冴える斬新さに舌鼓を打ち)、22時の遅い夕暮れをビーチに戻って堪能し、タクシーで繁華街に戻る。
「冬季オリンピック」の聖火台が残るハーバーでまた撮影。
もう、みんな自由すぎて離ればなれになり、偶然私はフレッシュさん&安藤さんと合流出来たけど、ひとり合流できていないジェットさんは、もしかして迷子に? いや、事件に巻き込まれたかとにわかに心配。といっても、自然とバラバラに行動し始めた我々は集合場所等決めておらず、私がみんなと出会えたのがただの奇跡だっただけなんだけど。
ハーバーに安藤さんを残し、ホテルにもどっても部屋にいないジェットさんに「もしや……」と胸に不安をよぎらせた頃、ホテルのロビーでちょうど帰ってきた山下さんに出会った。
山下さん「ジェットさん? 外で写真撮ってましたよ?」
マイペースな旅の始まりの予感。
出発がバタバタだったから、最初の写真はホテル「Carmana Plaza」。バンクーバーの空港さえ撮り忘れた。
これが最初に食べた、里芋? タロイモ? の揚げたやつ。美味しかった。
点心でお腹いっぱい食べたの始めて。どれもこれも美味しかった。写真を見てるとお腹が減る。
真剣な表情で飲茶を撮る小原さんと、カメラの練習がてら撮っている安藤さん。そこに挟まれる山下さん。
キツラノビーチ。のんびりしつつもスタイリッシュな時間が流れていた。
撮影するフレッシュさんのシルエット。大きな木が沢山あって気持ちよかった。
釣り人のようなジェットさんとフレッシュさん。撮影中。不思議と安藤さんの三脚も釣り道具に見える。
緩やかな坂沿いにクリーニング店などのローカルな店から、洒落た家具やさんまで並び、目黒のインテリアストリートを彷彿とした。
大興奮したドライナッツ・フルーツのお店。熱心に「OKURA」を選ぶおばさま。
扱っている種類もさることながら、スパイス、カレー、ハニー、メイプルなどフレーバー違いが揃っていて悩みに悩む。
フラッと入ったカフェでベリーティ。内装もステキだし、何より無糖・ナチュラルな味が良い。味が濃いことがサービスのアメリカなどではなかなか体験できないこと。
素敵なマーケットもチラリ。立ち寄ったブティックもどこもステキで完全に住みたいと思った。
「お寿司がおいしい」というジェットさんの証言のもと、カナダ観光局の方がおススメしてくれたお寿司屋さん。
ご当地ビールでも、と思ったらこんなところで故郷と会う。米を使ったらそれはビールなのか?
アボガドロールは素晴らしい文化交流の賜物。海外で食べるロールの旨さたるや……。ちなみに、わさびが食べれない私のために別盛りになっている。
バンクーバーで実はウニがオススメ。日本では高級食材のウニは、カナダでは日本人くらいしか食べないらしく、安価な上に新鮮で美味しい。(しかしこのときは水揚げ量が少なかったらしく、1ピース6ドルと可愛くなかった)
カナダのマジックアワーは遅くて長い。写真は夜10時になろうという頃。
マジックアワーを捕らえようとするフレッシュさん。たぶん、この写真を撮ってる。
太陽が沈んだ後の夕闇でオーロラ撮影の練習をする安藤さんと、講師と化してるジェットさん。
キッツラノを離れハーバーへ。金曜の夜だったせいか街中が賑やか。治安も良い。
これらの撮影に夢中になっている間に、ジェットさんと離ればなれに。
安藤さんとフレッシュさんがジェットさんを探しに行っている間に撮った写真。氷のようなオブジェは冬季オリンピックの聖火台。
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INDEX 北極でオーロラが出てるとき、南極にも同じオーロラが出ているらしい #カナダでオーロラハント 00
この日のオーロラハンターたちのブログ。
カナダでオーロラハント Day1 | PHUNKYPHRESHPOST
エアカナダの機内食パノラマ: 小原玲(動物写真家)のブログ
マンゴープリン in バンクバー: 小原玲(動物写真家)のブログ
オーロラハンターたち
・DJ/HDRフォトグラファーのファンキー★フレッシュさん(Twitter|ブログ|Flickr|Flavors)
・ビデオブロガーのジェット☆ダイスケさん(Twitter|ブログ|YouTube)
・ブロガー/デザイナーのコヤナギユウさん(Twitter|ブログ|instagram)
・写真家の平田誠さん(ブログ)
・プロデューサーの山下由妃子さん
・動物写真家の小原玲さん(Twitter|ブログ)
・ユーコン準州ガイドでフォトグラファーの上村知弘さん(サイト|ブログ)
番外編:(この旅のきっかけ)夏のカナダでオーロラ観測!? カナダ観光局さん主催のブロガーイベントへ行ってきた
番外編:【妄想旅程】一期一会を一生涯に。カナダ白熊団・夏のカナダでオーロラ&ネイティブカナディアン大会
番外編:【まさかの妄想旅程2】勝手に増員カナダ白熊団・アイスロードドライブで逝く、凍てつく北極海◯◯体験大会! #カナダでオーロラハント 番外
番外編:(ジェットさん、フレッシュさんとやったイベント)10月20日麻布十番で喋ります! イベント:「カナダ行った」
番外編:(コヤナギ編集オーロラ本) ICELAND NOTE ー24さい、わたしと、オーロラ
番外編:(カナダ関係)Love letter from カナダ:プリンス・エドワード島とトロントを訪れて。
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なんとなく、ロゴデザインさせてもらったアーティストDAFTYのYouTube貼っておきますね。