TRIP

夜空にかかる極北の虹、オーロラ爆発に遭遇する。 [2013.09.03] #カナダでオーロラハント 07

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SUCCESS!
「カナダでオーロラをハントする!」そう息巻いて出発したのが5日前。
天候に恵まれず、オーロラチャンスを逃し続けて5日目。焦る気持ちを一転させる「ツンドラ紅葉」という絶景に出会い、かつてゴールドラッシュに湧いた極北の地・ドーソンシティで迎える最後の夜。夕方時点での天候は、初めて見る「雲ひとつない大空」でまずまず。
だけど、インターネット上で数時間ごとに公開される「オーロラ予報」は最高レベル10中の3と芳しくなかった。

でも、いい。
それでも、いい。

もし、オーロラに出会えなかったのなら、仕方のないことなんだ。
そう収めるしかないと、なんども唱えた言葉が、今はすっと胸に染み込む。
悲しさや残念さが、朝とは比べ物にならないくらい、消えていた。

旅の写真は本文の下にまとめて載せたよ。

オーロラを望みに行く防寒支度も慣れたもの。
1時間ほどの仮眠を挟み、21時頃起床する。

「夏オーロラ」といえど、ここは永久凍土が残るツンドラ気候地域。
湖はまだ凍りはしないけれど、じっと風通しの良い山の上でオーロラを待っていれば、体温はたちまち奪われてしまう。

ヒートテックの長袖と、その上にカットソーとパーカー、ボトムにはヒートテックのモモヒキの上に、小原さんから借りたアウトドア用のヒートテックモモヒキを重ね履き、デニムを履き、その上から上下の雨具を装着する。
この雨具は数年前、富士登山に臨むときに気合いを入れたゴアテックス製。
今回、オーロラハント旅行へ行くために、新調したiPhoneカバーやレンタルしたスーツケースは、みんなオーロラを意識して黄緑にした。
偶然、このゴアテックス製の雨具も黄緑で、もう、やたらと黄緑だ。

その上から、イヤーマフをして、マスクをし、小原さんから借りたアウトドア用の何万円もするフリースジャケットとウィンドブレーカーを羽織り、マフラーをグルグル巻きにして完成。
靴下だって、登山用の靴下の上から、これまた小原さんに借りたゴアテックス靴下を履き、登山靴をきゅっと締めた。

私が「東京の冬」をイメージした防寒着は全然足りなかった。
寒がりなのも、あるけれど、とにかく観光客用の設備がないようなところで、極北の夜を過ごすとは、夏でもこういうことなのだと思った。

なかなか沈まない太陽は22時を過ぎてもまだ「マジックアワー」で空を赤く染めている。
オーロラ予報は、依然、レベル3。
正直、期待できる数字じゃないそうだ。

地域によっていろいろな「オーロラ予報サイト」があるが、ユーコン準州近郊のオーロラ予報が確認できる
サイト「オーロラキャスト(http://www.auroraforecast.com/)」では、

レベル1:出てはいるが肉眼では確認できない
レベル5:人によっては肉眼で見える
レベル7:カーテン状のオーロラが確認できる
レベル10:一体が明るくなるほどのオーロラ爆発

という感じだそうだ。
だからレベル3は、肉眼で見えるか見えないか、といったところ。

もちろん天気予報と同じく、オーロラ予報だって外れることがある。
良い方に期待したっていい。
だけど、もう、本当にどっちだっていいのだ。

いい景色と面白い仲間がいれば、もう「大冒険」は「大成功」だ。

ドーソンシティからまたバスに乗り込み、「ドームストーンマウンテン」と呼ばれる山の上に来た。

ここは、山の上にドーム状の丘があり、360度夜景が望め、どこからオーロラが出ても観測出来る。
早めにつついた我々は、太陽の残り火をたよりに、各々カメラをセッティングする。

セッティングするって言ったって、どこからオーロラが出て来るのか、というかオーロラが出るのかさえ分らないのだけれど。

人間の本能的に、わずかに明かりが残る遠くのユーコン川を、みんなで眺めていた。

日が沈んだのは0時30分。

思い思いに過ごしながら、期待通りの天の川に見とれていると、車が数台上がってきた。

わざわざオーロラを見に来るのは日本人くらいだ、と聞いたことがあったが、やってきたのは大型の観光バス。
おばさま方と、おじさま方が、少女のように興奮して参戦してきた。
本当にお上品そうなマダムたちで、少し関西弁なまり。

することもないので、私のカメラでは上手く移らないのだけど、天の川を撮ってみたりする。

「出てきましたよ、また、あの木の間から」

! きた。

弱いオーロラは人間の目には見えない。
けれど、長時間露光したカメラにだけには、その姿を見ることができる。

“あの木”さえ満足に確認できないような暗闇に向けて、「あの辺かな」という方向にカメラを向ける。
そう、オーロラも見えなければ、あたりの輪郭さえよく見て取れないので、カメラのファインダー何てなんと役にも立たない。
もちろん、大画面のモニターだって意味がない。

野生の勘に従って、方向を定め、シャッターを切る。

長時間露光の撮影だと三脚と「レリーズ」といわれるシャッターを遠隔で押すリモコンが必須。
シャッターを押した振動でカメラが揺れてしまい、写真がぶれるからだ。

私は、東京から持ってきた小さな卓上三脚に、背の低い木々を想って「ツンドラ三脚」と名付け、2秒間のタイマーを駆使してシャッターを切る。

一昨日、平田さんに教えてもらった通り、「M」と書かれたマニュアル設定で、ISO感度は1600、ホワイトバランスは「曇り」にして、ピントは“無限よりちょっぴり手前”(『ICELAND NOTE ~23才女の子、わたしと、オーロラ』より)。

シャッタースピードは15秒、20秒、60秒といろいろ試して見る。

……カシャリ。

まるで仕掛けた罠の獲物を確認するような気持ちで、カメラのモニターを確認する。
まだ目に見えないオーロラは、この方向で捉えられたか……、いた!

写真にはたくさんの星と、薄ぼんやりとした黄緑っぽい発光が確認できる。オーロラだ。

全身を黄緑で揃えてきたように、私はオーロラとは黄緑色のものなのかと想っていた。だけど、どうやら違うらしい。
あの派手派手しい蛍光グリーンはカメラに映るオーロラの色なんだそうだ。

そう言えば、一昨日の雲越しに撮った写真も、空が一面の黄緑になっていた。
目で見ると、ただちょっと明るいだけに見えたのに。

あの黄緑色は、いわば持ち出せる写真の「お土産用のオーロラ」なんだ。

見てみたい。
やっぱり、本物の色を見てみたい。

少しでもオーロラが強くなったところを逃さないように、オーロラの位置を確認するため、写真を撮る。このカメラだけが、弱いをオーロラを捉えるレーダーなんだ。

だんだん光が強くなってきた。
位置が分っていて、暗闇に目が慣れたせいか、オーロラが肉眼で見えてきた気がする。

“あの木”がある東側から、オーロラが北へ伸びて行き、だんだん強まっていく。
良く見れば、少し黄緑がかっていて、少しピンクにも見える。……見えている!

薄弱い光をシャッタースピードを調節して捉えて見る。
長ければ明るく映るけれど、なんだか夜空が汚い。

プロカメラマンの小原さんや平田さん、ファンキー・フレッシュさんの写真をモニターから見せてもらう。違う。闇の色も、オーロラののび方も、全然違う。

そこに映っていたオーロラも夜空も、絵画のようだった。

でも違うんだ。
みんなの写真の中のオーロラは確かに美しい。
私の、単調な黒と黄緑の世界とは全然違う。
だけど、目の前にあるオーロラは、もっと色彩豊かで、誰にも再現できないような見たこともない色を湛えている。

なんとかシャッタスピードを調節してみたりして奮闘していると、オーロラは突然、様子を変えた。

そう、ホントに突然。

東から西へ、とうとう空全体に繋がった真夜中の虹のようだったオーロラは、ミュージカルのフィナーレのように、たくさんの“踊り子”達を引き連れて、空から降りてきたのだ。

壮大で淡いレースのカーテンが、スーッとあたりいったいに降りてきた。
そのドレープは右へ左へと、大きく大きく動く。
何か意志を持って巻き取るように、ピンクやオレンジや白いフリルをひるがえして、大空を使って踊っている。
それが、肉眼でハッキリ確認できる。
私のカメラで撮っても、画面中キミドリになるばっかりだ。

「これがオーロラ爆発ですよ!」

イエローナイフでオーロラ爆発に遭遇したことのある平田さんが教えてくれた。

感動と、底知れない安堵感でどっと力が抜けてしまった。

こんなもの、私のカメラでは「お持ち帰り」にできない。
この状況を、奇跡を、思う存分体感しよう。

そう割り切って、私はカメラの撮影を止め、地面に大の字になって寝そべった。

そうさ、写真の撮影はプロのカメラマンさんにお任せだ。
モチはモチ屋さんとむかしから言うじゃないか。

寝転ぶことで、空中のオーロラを体感できる。
まるで夏の蚊帳の中にいるようだ。
身体が浮き上がって、宇宙の布団で寝ているみたい。
寒かったことも、うっすら感じていた尿意さえも吹き飛んで、いまにも「サラサラ」と音をたてそうなオーロラが耳元をこそばす気がする。

まるで瞳を閉じているかのような、目の前で起こっている、宇宙の夢。
言葉なんてない。
すごい。
ただ、すごい。

オーロラ爆発は30分くらいは続いたと思う。
淡い黄緑のユニコーンが白いたてがみを揺らしているような、妄想をオーバーラップさせながら、大空の舞台を楽しんだ。
オーロラの黄緑は、なんてふんわりと上品なんだろう。
あんな色、今までみたことがあっただろうか。
モニターの上でなら再現できるのだろうか。
空の青さを再現することに挑む画家がいると聞いたことがあることがあるけれど、その気持ちがよく分かった。
つかみどころのない初めて見る色に感動し、その感動を伝えるには、あの色を見てもらうしかないからだ。

それからもオーロラは完全に消えてしまうことはなく、ゆらゆらと小さなダンスを披露してくれていた。

時計は2時を回り、遠くから車のヘッドライトが望めた。
きっとお迎えのバスくんに乗ったガイドのトモさんだ。

今夜は最高の、ドーソン最後の夜だったと思った。

……しかし、車のヘッドライトが途中で消えた。
あれ? トモさんじゃなかった?

「良かったです。オーロラ爆発しましたね!」

そう話しかけられて振り向くと、そこには暗闇から音もなく歩いて現れるトモさん。
思わず「忍者!」と叫んでしまった。
(オーロラ撮影を邪魔しないよう、早々にライトを消して近づいてくれたトモさん。気遣いレベルが10だ)

20131107_868001
眼下に広がるのは慎ましいドーソンシティ。0時くらい。

20131107_868002
なんとなく、夕陽の沈んだユーコン川に向けて、みんなのカメラはセットしてある。

20131107_868004
私のカメラで星空を撮っても、黒い服に付いたホコリみたいになっちゃう。
東の空の“あの木”。雲と空との間がうっすら黄緑……!

20131107_868005
虹のような弱いオーロラ。上部がピンク。

20131107_868006
この頃には肉眼で見え始め、シャッタースピードを調節しないと派手な黄緑になってしまう。流れ星も映ってる。

20131107_868007
右下にあるのはユーコン川。

20131107_868008

20131107_868009

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降りてきたー!!!

20131107_868012
思っていたよりも結構素早く動くオーロラ。本当にカーテンみたい。

20131107_868013
肉眼ではミルキーな黄緑のユニコーンが、白いたてがみと七色の光を引き連れて走っていたんだよ~!

20131107_868014
匠な仲間たち。

20131107_868015
「ドームストーンマウンテン」の頂上にある大きな木のベンチと一緒に。

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ラブラブ カメラマン平田さんのオーロラ写真がFlickrに!⇒2013 ExploreYukonFamDay04 – a set on Flickr

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