また、田舎感を感じさせるもうひとつの要素に舗装されていない道路があるが、これはしかたがないらしい。というのも、地中には永久凍土が眠っており、舗装してもすぐに波打って使い物にならないのだそうだ。
ドーソンシティで3日間滞在する宿「トリプルJホテル」に荷を置き、丸太を並べた歩道を歩いて、夕飯を食べにレストランへ。
黄色い木造のノスタルジックな外観とは裏腹に、赤い壁紙といくつものフラッグがぶら下がる「クロンダイク ケイトズ」。
平田さんが 注文したアークティクチャーのソテーの美しさに嫉妬しながらも、私はまたお肉。記憶が曖昧なんだけど、バイソンだったような……とにかく美味しかった。表 面をカリッと焼き上げてからじっくり火を通したお肉は、味わい深いながらも余計な油分は感じさせない。そしてローカル野菜のソテーとマッシュポテトの付け 合わせが美味しくて、これ以降、メニューにマッシュポテトを見つけると必ずオーダーするように。カナダはポテトと、あとパンもおいしいのだ。
FAMツアーの一日は長い。
そ の後我々はゴールドラッシュ時代の名残を残すカジノ「ダイアモンド トゥース グレッヂ」へ。ドレスコードもない「田舎のカジノ」だが、毎夜ステージで披 露される「カンカンショー」が目玉だ。この日記を書くために調べて知った事だけど、この店名も踊り子に由来する。なんでも前歯の間にダイアモンドが挟まっ ているグレッヂという踊り子がいたんだそうだ。
撮影許可のパスを店頭でもらい、会場へ。
体育館程度の広さの店内にルーレット、ブラックジャック、スロット、ポーカーなどの遊戯場がひしめき合っており、奥にはバーカウンター、2階にはVIP席があったが、やはり一番目をひくのは赤いベルベットの緞帳がおりたステージだろう。
ショー の時間まで店内をうろうろと撮影し、正面に陣取って幕開けを待った。やがて、ピアノとドラムがセットされたステージ脇の小さなサブステージに男が2人現れ て生演奏を始める。最初はジャジーな曲を、次にドラムで煽るロックを、そして聞き覚えのあるイントロが流れる。マリリンモンローの「Diamonds Are a Girl’s Best Friend」 だ。私にはロジャーラビットの奥さんが歌うシーンや、映画ムーランルージュのイメージが強い。妖艶な女性の登場に胸を躍らせていると、ステージのそでから 現れたのは……カナダの森公美子。がくっとなりつつも、歌はうまい。そして、また曲は一変し、公美子がそでに引っ込むと、ベルベットが4カ所めくれ、そこ には脚! 脚! 脚! 脚! 予想外の演出にテンションは上がり幕があがると誰もが驚いた。可愛い! 伝統的な赤と黒のドレスをまくり上げ、子犬のように 「アン!」「アン!」と声と脚を赤らかに上げる。ショーの内容は日替わりで、今日は一番、カジュアルなものとの事。
ライブとショーを交互に行い、女の子たちは4種類の衣装を披露してくれた。
……で、FAMツアーの夜はまだまだ続く。
だって我々の目的はカンカンショーではない。
22時30分。ありったけの防寒着を着込んで、支度をする。トイレはもう何も出ないだろうってくらい、念入りに行く。時折、外から人のざわめきが聞こえた。集合場所のロビー前へ行くと山下さんと平田さんがわたわたしていた。安藤さんも一緒だ。
外が騒がしかったから、そんな気がしていたけれど、やっぱり。
オーロラハント1日目は雨で星空しか見れず、私はまだオーロラを見た事がない。イエローナイフでオーロラの撮影をした平田さんは満足そうに、初めてオーロラを見た山下さんは興奮していた。
というか、今まだオーロラハント2日目なんだ。この旅もまだ3日目。濃過ぎる。
オーロラ対面を逃した悔しさで地団駄を踏む。
その間、安藤さんは存在薄げに苦笑を浮かべていた。
オーロラ撮影に置いて、カメラの次に大切なのは三脚とシャッターリモコンといっても過言じゃない。三脚がなければオーロラをハントできないのだ。
安藤さん「あ、今日は借りれたんで、大丈夫なんですけど。いやぁ、大切だから別にしておいたら、前のホテルに忘れてきたみたいで……」
旅独特の注意力散漫病と疲れがテキメンしているようだ。
ジェットさんとファンキーさんは水辺にこだわり、歩いて街から3-40分のユーコン川ほとりへ。我々はバスに乗り込んでこのあたりで一番高い山の上に行く。高い位置にいればどの方向からオーロラが出ても観測できるし、町灯りの影響を受けにくいそうだ。
市街地から車で30分ほど、林を抜けて、観測地に付いた。
ここはオーロラを見に行くスポットではあるけれど、整備されたような「オーロラビレッジ」ではない。
暖をとるような小屋はないし、トイレだってない。
このオーロラハントは「FAMツアー」だ。
それぞれの道のプロが集い、良い作品=オーロラ写真を撮りに来ている。観光旅行ではないのだ。
実 は昨夜、雨で断念した初の「夏の極北の夜」を体験し、思ったことがある。それは「夏とは言え寒い」ということ。「極北の夏は東京の3月末くらいの気温」と 聞いていたので、花見くらいの寒さかと思っていた。とんでもない。夜は真冬だ。自分の装備に不安を覚えていると、今日の出発前に小原さんに呼ばれた。
小原さん「じゃあ、今回コヤナギさんが持ってきている防寒着を持って、とりあえず僕の部屋に来てみて。足りない分は貸すから」
野生動物写真家である小原さんは、こういう撮影のとき、防寒着を2セット持って行くそうだ。極寒の地で防寒着が濡れるなどし機能しないと命に関わる。だから、予備を持ってくるらしい。
私の持ってきた登山靴やゴアテックスの雨具、ダウンの中着などを見て、小原さんはパタゴニアのプロ仕様のフリースとウィンドブレーカー、手袋にゴアテックス仕様の靴下、毛糸の帽子に手袋まで貸してくれた。
小原さん「大丈夫、僕は慣れてるから、暑いくらいだよ。寒い寒いっていわれて、早く帰らなくちゃならなくなるよりはずっと良い」
……マジで、何らかの理由で私がオーロラの写真を撮れないのだとしても、足手まといにだけは絶対なっちゃいけないと思った。
車は私たちを降ろすと下山していった。ピックアップの時間に、また来てくれる。それまでは文明とはおさらばだ。暖房とも、トイレとも。
到着したのは夜の11時を過ぎた頃だが、空はまだ若干明るい。
昨日のホワイトホースより、緯度が高いせいか日が長いようだ。
夕闇の中、露光時間や方向を調節しながらみんな無口にカメラをセッティングする。私も、とても小さな三脚を持ってきた。地上わずか15センチといった高さではあるけれど、しっかりカメラをセットする。私の技術で撮れるかどうか分らないけれど、挑戦してみたい。
ぼんやりと光を反射するユーコン川が確認できる。そして、分厚い空の雲も。どけ、今日こそ、飛んでいけ。
やがて、闇も降り、来るとも知れないオーロラを待つ。あたりは街灯も届かない暗闇で、空に雲があるかも分らない。
ヘッドライトを付けて登って来る車は遠くからでもすぐに分った。
やってきたのは観光用の大きなバスで、降りてきたのは日本人の年配の観光客だった。
オーロラ観測のために海外旅行するのは日本人だけ、そんな話を聞いたことがあったけれど、まさにこう言うことらしい。
明らかに我々とはテンションの違う賑やかな関西弁のおばちゃん集団に、我々は沈黙で迎える。
どうやら彼女たちは何日か滞在しているようで、今日は見れない、一昨日はすごかったなどと良い、30分ほどで退散していった。山の上には静寂が戻り、ホッとする。
誰ひとり不満を漏らすことなく、じっと「最高の瞬間」を待つ。良いものを撮るために最善を尽くす。人生の、制作者の先輩である小原さんや平田さん、山下さんの姿勢を見て、同席できていることが嬉しかった。
その時は突然やってきた。
夕陽の名残を追って北西を向けていたカメラを、北東に向け直す。
でも見えない。何も見えない。
平田さんのカメラを覗き込むと、確かに2本の木々の間から、緑の光がスッと立ち上っている様子が映っている。
でも、目では見えない。全く。うっすらとも。
平田さん「目で見えないくらい弱いオーロラでも、長時間露光でカメラに写るんですよ」
平田さんや小原さんのようなプロ用のカメラだから映るのでは? だって、目では本当に全く見えない。指標となる木々がそこにあるかどうかすら、よく見えない真っ暗闇なのだ。半信半疑でカメラを向け、シャッタースピードを遅くしてみた。30秒。カシャ。
私のカメラにも写った。何もない暗闇のはずの空に、緑色のモヤがうっすらかかった。けれど、なんだか画面はつぶつぶとノイズが混じり、とてもキレイとは言い難い。
平田さん「ふむぅ。じゃあ、ISO感度は1600くらいかな。ホワイトバランスは「曇り空」にすると良いですよ」
いわれた通りに設定して見る。そうそう、書籍「アイスランドノート」を作った時に知ったんだ。ピントは「無限よりちょっと手前」に合わせる。
改めてシャッターを降ろしてみた。真っ暗な空に向って、画角や構図なんか全部当てずっぽうで、オーロラがどこに出てるかなんて全く見えないけれど、イマジネーションで、ここだと思った方向にカメラを定めシャッターを押すのだ。そしてしばらく待つ。
ノイズはかなり軽減され、カメラのモニターに蛍光緑のオーロラを捕らえることができた。本当に「ハント」だ。
オーロラ予報と言うものがあって、それはオーロラの強さと、その予報の自信度が数時間ごとに更新されるそうだ。まだまだ謎の多いオーロラ。予想が当たるとは限らない。
オーロラの強さ予測は最大レベル10。自信度は5がMAX。
今日のオーロラ予想はレベル6で、自信度は5と期待出来るはずだった。
平田さん「カンカンショーの撮影に夢中でカメラのバッテリーが切れそう」
闇に目が慣れたのかと思った。
どうやらそうじゃない。光源がなければ目が慣れても周りは見えない。さっきまで何も見えなかったはずだったのに、今は離れたみんなのシルエットが分る。空が、ぼんやり、明るい?
平田さん「去年、イエローナイフでね。見たらきっと泣いちゃいますよ。僕は恥ずかしながら、涙が出ました。神秘的ってもんじゃない。ちょっと怖いくらい。空中を光のカーテンが降り注いでね。……ああ、ほら、雲がこんなに厚いのに、空が明るい」
みんなで空を見上げる。
安藤さん「あの時は、三脚を忘れたことがショックでぼーっとしてたんで、オーロラどころじゃなかったんです」
輪になって話していて、みんなの表情まで見えそうなくらい、空が明るくなっているのが分る。
〈小原さんが撮ってくれた360度パノラマ集合写真:The Northern Lights Sep. 1 2013 Dawson city, Yukon〉
分厚い雲に隔たれ天空で舞うオーロラを思い、みんなで記念写真を撮った。
やがて車がやってきた。夜中の2時。4時間近く、この寒空の下にいたことになる。川辺組みのジェットさんやファンキーさんはどうだっただろうか。
私が思い描いていたオーロラは、カメラのまやかしなんだろうか。全部カラクリなのだろうか。でも、山下さんたちはホテルの前で、目で、カーテン状のオーロラを見たというし、平田さんもイエローナイフでは感涙するくらいのオーロラに出会っている。
私は出会うことができるんだろうか。
オーロラハントの旅、3日目が、終わる。
「ドーソンシティ」に着いた! 道路は永久凍土のため舗装されていない。
ドーソンシティでの我々の宿、トリプルジェイホテル。
こじんまりとしたホテルの部屋。クッションの奥にチラ見えしてるのは私のパンダです。
ディナーをいただいた「Klondike Kate’s」。こんなに明るいけど19時頃。そしてまだ天気が良かった。
壁に飾られているのはゴールドラッシュやネイティブカナディアンに関する写真が飾ってあった。
通常は映像撮影はNGだけど、メディアパスをもらって撮影へ。FAMツアーの有り難いところ。
可愛かった。踊り子さんたちは夏のシーズン、バンクーバーから精鋭が来るらしい。
着込めるものは着込み、リュックの中には小原さんからお借りした防寒具をギュウギュウに詰め込んで。
夜中の0時近いとは思えない空。オーロラスポットの山の上より。
目では全く見えないけれど、画面の中央がうっすら緑に。オーロラでなければ緑には写らない。
少しずつ濃くなっていくオーロラ。これくらいではやっぱり見えない。
異常に気がついた頃。肉眼でもあたりが明るいのがわかるけれど、写真に撮るとバスクリン状態になってしまう。雲が厚いのに、オーロラの強さが伺える……
オーロラも凄く強くなると写真でも黄緑以外の色が映り込む。右側のオレンジっぽいのは町灯りは遠いから何か、上空で起こってるようだった。
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この日のオーロラハンターたちのブログ。
カナダでオーロラハント Day3 前半 | PHUNKYPHRESHPOST
カナダでオーロラハント Day3 後半 | PHUNKYPHRESHPOST
雲の向こうではオーロラがすごいことに: 小原玲(動物写真家)のブログ
北西カナダのユーコン準州で秋のカナダを体験中です ~ トロントで暮らすブログ
オーロラハンターたち
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番外編:(ジェットさん、フレッシュさんとやったイベント)10月20日麻布十番で喋ります! イベント:「カナダ行った」
番外編:(コヤナギ編集オーロラ本) ICELAND NOTE ー24さい、わたしと、オーロラ
番外編:(カナダ関係)Love letter from カナダ:プリンス・エドワード島とトロントを訪れて。
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