このレポートの表紙はこちらから。今日から作品の展示物として生活!
……でも、そういえば担当者の方から連絡が来てない。
行って良いんだよね?
そもそも、私がこの「水と土の芸術祭」を知ったきっかけはこの募集だった。
Facebookで「原稿ははかどりそう」というコメントとともに回ってきたのだ。
ちょうどその時、どうしてもカナダ本の執筆を進めたくて、篭れそうなペンションや安宿を探している所だった。
リンク先をクリックすると、場所は新潟市。
私の出身地である。
新潟市がそんな芸術祭を開いていたなんて知らなかったし、地元であるがゆえ、「原稿を書く」という集中力が必要な作業は難しいと考え、ウィンドウを閉じた。
けれど、気になって仕方がなかった。
だって「面白そう」臭がプンプンするのだ。
いつまでもやっている企画じゃない。
体験するなら今しかない。
翌日、私はFacebookのタイムラインを一生懸命遡り、リンク先を見つけて申込ボタンを押した。
それから、何度か簡単なメールのやり取りをして、入居日程を決定。
当日に至る。
そう、入居日程以外、決めていないのだ。
入居前日に問い合わせメールを送ったが返事はなく、事務局の電話を鳴らしても誰もでなかった。
こちらから連絡を取る術がない。
当日の朝、枕元で携帯が鳴る。
見知らぬ番号が表示され、寝ぼけながら応答する。
「もしもし……」
『えっ、あっ、コヤナギさんですか?』
「はい……」
『コヤナギユウさんて、女性の方だったんですね』
電話の主はメールのやり取りをしていた担当者のワタナベさん。
ワタナベさんも、女性の方だったんですね。
「あ、そうなんですよ。どっちか分らない名前ですよね」
『今日、いらっしゃれます?』
「え、行って良いんですよね?」
『あ、はい。何時頃いらっしゃいますか?』
「え、何時頃、行けば良いですか?」
『あ、今の今なんで、ムリのない時間に……』
良かった。ひとまず行っても良さそうだ。
『ご連絡遅れてすみませんでした。ちょっと、別のプロジェクトで25日にオープニングパーティがあって、バタバタしていて……』
“25日”“パーティ”……!
キーワードが海外ドラマのフラッシュバックシーンみたいに駆け巡る。
その言葉、聞き覚えがあるぞ。
おじいが、ビンさんが、青年が口々につぶやいていたあの言葉。
「もしかして、それ、福井の作品のヤツですよね?」
『あ、ご存知ですか?』
「昨日、お邪魔させてもらいました。みなさん口々に“25日”、“パーティ”って口にされていましたね」
『何時頃いらしたんですか? 私も居ましたよ!』
会場ではニアミスで会えなかったものの、妙な親近感が。
『そうだったんだですね。コヤナギさんが滞在中に私は行けないと思うんですけど、よろしくお願いします』
そんなわけで、安心して作品へ向かう。
西野達さんの作品「知らないのはお前だけ」作品No.【54】
リビングと、
寝室である和室。
12帖と6帖の和室からなる、1LDKのこじんまりとした間取り。
浴室・トイレはユニットバスで、さすがに覗くことは出来ないが、それ以外は独立洗面台も、クローゼットも、押入れも開放されている。
そして、こっちが住人目線の室内。
……着いたは良いけど、落ち着かねぇ。
その「落ち着きのなさ」はまだ“人に見られる”以前の話で、単純に部屋が“他人にモノ”というか、馴染んでない。
荷解きや掃除の前に、何か愛着がわくようなことをしたい。
そこで簡単に部屋の模様替えをした。
私には自分のデスクが必要なのだ。
と言うわけで……
じゃじゃーん。
ダイニングテーブルを拝借して机に。
ソファをリビングの中央に鎮座。
これでやっと「自分の家」って感じが出てきた。
天井が高い我が家です。
キッチンの上から人が入ってきます。
この日は平日の金曜日だったせいか、来場者はまばら。
メイン会場からは車で40分は離れた新潟市の外れだもの。そんなもんか。
そして意外だったのは、意識して生活していないと、人は目線より上はあんまり見ないと言うことだ。
天井がないことを忘れそうになる。
おまけに、一日中回している扇風機のせいもあり、上の音はあまり鮮明に聞こえない。
さすがに、頭上真上の声なら分るけど。
部屋の中を一通りお掃除し、リビングのカレンダーに気がついた。
今までの住人の方たちが、ちょっとした日記を残している。
5日、日曜日の気になる記録を見つけた。
ツアバス2台が来たため約50人(の来場者)
メイン会場から公式ツアーバスが何本か出ており、そのうちの1つにここが含まれている。
私たちの滞在が最終日となる日曜日にもバスが来る予定だ。
50人も来たら、この上のギャラリーみっちみちになるじゃないか……!
せっかく展示されているんだもの、どうせならたくさんの人に簡閲されたい。
来る日曜日を思ってワクワクする。
「すいませ~ん、写真を撮っても良いですか?」
来場者の方に声をかけられた。
「もちろん! あ、私も逆に撮っていいですか?」
初日の来場者数は2.3名の一般客2組と、閉館間際に学生の団体15名が1組ほどが来て終わった。
どの程度、上から覗くと見えるんだろう。
閉館後、帰宅間際のスタッフの方にお願いして我が家を上から覗かせてもらった。
(この写真、初めて私って母に似てるんだなと思った。写っているのは母です)
今、私が編集長をさせてもらっている「東京ナイロンガールズ」の生みの親であり、
初代編集長のトミモトリエさんは、自分の机に向かう姿をUstreamで配信していたことから「ダダ漏れ女子」なんて呼ばれていたけれど、
うちは「生ダダ漏れ母子」だな、なんて思った。
来場者用の2階入り口の鍵をスタッフの方が閉める。
階段からの風景を写真に収めた。
元・小須戸中学校の教員用住宅の天井だった場所からは、プールがよく見えた。
足場に囲まれる我が家の灯火。
閉館時間は18時だったが、少しおして19時頃、初日を終えた。
この時間、街には夕方の後、きっちり夜が訪れた。
東京とは7時間くらい時差があるんじゃないかと思うくらい、こっくりと静かな夜だ。
近くまで車を走らせたが、この時間(といっても20時くらい)にやっているファミリーレストラン的な便利な場所は一切なく、スーパーで焼くだけのお肉を買って、コンロでごはんを炊いて、夕飯を食べた。
トイレに入ると通称「便所コウロギ」と呼ばれるカマドウマに2匹遭遇。
「さすがI NA KA」と一瞬たじろいだが、サッと始末して、用を済まし、机に向かう。
カナダ本の原稿を書くつもりで、ここに来た。
けれど、ここに居る間に、私がやるべきことが、「私にも出来ること」があるように思えた。
「水と土の芸術祭」を観客として楽しみながらも、休館日を知らずに作品がことごとく見られなかった日のことを思い出した。
ガイドブックが分り難い、広報不足……快適に楽しめない不満がいろいろあった。
けれど、運営側の苦労も少なからず想像できた。
不満を言うのは簡単だ。
グチはシロウトのエンターテインメントだと思う。非難するのは簡単だけど、じゃあ、私に、何ができる?
私に出来ること、微力でも、ある気がする
5日前の写真を編集し始め、私はWordの原稿ではなく、ブログの入力画面を開いた。
翌日は小須戸の喧嘩灯籠祭。
その時、長岡市に暮らす兄からメールがあった。
どうやら遊びに来てくれるっぽい。
うちは兄と2人兄弟で、父はすでに他界している。
実家じゃない我が家に、コヤナギ家のオリジナルメンバーが集結する。
※執筆中の9月8日現在、友達のシャチョーが8日まで「お前だけ」になってます。お近くの方は鑑賞しに行ってみて。