TRIP

雪山をそばに感じながら大沢山温泉に浸る田舎のおもてなし宿「大沢館」

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SUCCESS!

仕事で一度だけ、パークハイアット東京のスイートルームへいったことがある。

宿泊取材ではなく、そこに泊まるVIPとの打ち合わせで、だ。防犯を意識してかいくつかのエレベータを乗り継いでやっと到着するという別世界。マンションだとしても広すぎるその部屋。だけどおどろいたのは部屋だけじゃなかった。途中いくつか通過する「ライブラリー」と呼ばれる小さなエントランススペースに果物が置いてある。聞けばフリーフードらしい。たしかにここには一般客はやってこないけれど、わたしみたいに使いっ走りで足を踏み入れる他人もいるのに豪勢なことだ。ひとつ記念に、と食べてみれば良かったのに、わたしのような下賎の者には触れることすら許されないと卑下して、急いでその場を立ち去った。

 

・・・

 

田舎ならではのおもてなしが楽しめる秘境の宿があると聞いて、新潟県は魚沼の大沢山温泉へやってきた。

宿の名前を「大沢館」という。

 

大沢山温泉の大沢館。実にストレートだ。

 

 

 

田舎のおもてなしを感じる大盤振る舞い

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ついたころにはすっかり日が暮れていた。

暖かい光を求めて玄関をくぐる。

広々とした玄関は吹き抜けになっており、なんだか今成漬物店の母屋を思わせた。

 

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入ってすぐ左はエントランスの役割を担う、いろり部屋。ついたての向こうに受付と小さな土産物販売スペースがあった。宿泊する部屋はこの上、玄関から見えていた部屋だという。

 

 

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これは入り口からアクセスがいいねと、部屋に入ると、いたってシンプル。

 

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お風呂は温泉なのでいいとして、トイレも共同。つまり部屋はこれしかない。温泉宿というより湯治場か親戚の家のような妙な落ち着きがある。

館内は広いようなので少し探検してみよう。

 

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内湯も広い窓と高い天井が開放的で気持ちよさそうだ。

露天の方はどうだろう。

……ん?

 

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なんだろう、保温機がある。

 

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え? 甘酒?

こっちにあるのは、こんにゃく田楽。ちゃんとお味噌もある。

 

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そういえば玄関先にりんごが浮いてたけど……。

 

 

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え!?

これって、食べていいの!?

いろりにはお餅と焼きおにぎりも!

 

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なんと多種多様なラインナップのフリーフード!

フルーツからスイーツのみならず、つまみも主食も揃ってるのに、この上夕食も食べろというの!?

 

ふと、パークハイアットのことを思い出して笑ってしまった。フリーフードぶりでは大沢館の圧勝だ。こんなふうな食べもの責めのおもてなしって本当に田舎っぽくて暖かい。夕飯のことを思って間食は遠慮しようと思っていたけれど、ついつい味見と称してあれやこれやといただいてしまった。

 

 

日本秘湯を守る会認定のやわらかなお湯

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夕飯前にひとっ風呂浴びておこうと、露天風呂へ。

内湯とは独立していて、冷たい風が通り抜ける渡り廊下を歩いて浴室を目指す。

 

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脱衣室とは小さなサクを介すのみ、洗い場は3つあるがシャワーはひとつだけ、と潔い仕様だ。

 

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3月とはいえ雪国の夜は冷える。

速やかに服を脱いでかけ湯をし、温まりたい。

急いでアメニティの袋から小さいタオルを取り出そうと思ったら、中から出てきたのは軽石と、へちま!

 

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あー、この寒いのに、写真を撮らずにはいられない。

アメニティにヘチマが入っていたの、初めてだよ。これも大沢館らしいおもてなしなのだろう。

 

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バシャバシャと湯水の音を響かせて、急いで湯船の中へ。

肩までしっぽりお湯に浸かると、すべての音は雪に吸い込まれてしまったようだ。雪国の露天風呂だからといって、こんなに雪山に寄り添うようなお風呂はなかなかないだろう。

真っ暗闇にしずんだ里山に目をこらし、こぽりと柔らかなお湯になるべく深く、沈み込んだ。

 

おっと、あまりゆっくり模していられない。

これから夕飯だ。急いでいたはずなのに、やっぱり“罠”にはハマってしまった。

 

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振る舞い酒がついてくる、徹底した“田舎のおもてなし”

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普通に宿泊していれば、食事用の小さな部屋に通されるとのことだけど、今回は取材ツアーの団体客だったのでこちらの大広間でいただく。

最初の一杯は氷の入った手桶で運ばれてきた。これも「田舎らしい」おもてなしだろう。

 

 

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そして「宿主からのサービスです」といって1杯だけ日本酒が振る舞われた。

これは、特別仕様ではなく、この宿恒例のおもてなしなのだそうだ。

 

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このメディアツアーを企画した雪国観光圏の方の挨拶で乾杯。

 

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食事も田舎宿然としたオーソドックスなラインナップで安心感はある。

欲をいえば、ここは雪山なのだから、田舎暮らしではお刺身は食べないだろう。お漬け物や煮物の郷土料理など、「田舎宿」ではなく「田舎のおばあちゃんの家」のようなラインナップも選べるといいなと思った。お漬け物とかね。

 

(高齢者の宿泊客が多いと野菜食は「草ばっかり喰わせやがって」といやがられることもあるらしい)

 

 

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雪山が朝日に浮かび上がる朝風呂が最高だと聞いて早起き

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明けて朝。

 

山側から朝日が昇ると聞いて、朝風呂が美しくて気持ちいいに違いないと早起きしたら一番のりだった。

これはチャンスと写真を1.2枚ほど撮って湯船へ。

キレイだわーと悦に入ると、取材チームがやって来た。そうですよね、撮りますよね。

いそいそと服を着て、横並びで並ぶ。刻一刻と変わる朝の光にちょうどいい明暗を探す。

 

もういい? まだ暗い?

 

朝の空気はピンと張り詰めている。ここは雪残る雪山なのだ。

キリッと冷えた石畳は足の指先の体温を易々と奪い、感覚がなくなる。

 

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よし、もういい!

 

誰かの合図でみんな我先にと脱衣する。

慣れた様子でかぶり湯で洗い、湯船へ。みんな温泉取材のプロなのだなぁと、ここに並ばせてもらったことを光栄に思った。

 

朝日で渡り廊下が照らされている。

最後に、明るいうちに撮った大沢館の館内ツアーでこの記事を終わらせよう。

 

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実は茶室付きの豪華客室もある

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朝になるとフリーフードにコーヒーが追加されていたのが嬉しい。

写真は春から初夏の季節にだけ使われる食事用のいろり部屋だ。

 

火を扱うため天井が高く、冬場は暖房が効かず使えず、夏はエアコンがないため暑いらしい。

立派な部屋なのにもったいない。

 

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昔使われていた雪里道具も展示されている。

 

朝の内湯の様子
朝の内湯の様子

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そうそう、館内を歩くときは必ずスリッパを履くようにいわれた。

理由はこれ。

 

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日に日に春が近づき暖かくなってカメムシが活発に。誤って踏んでしまったときのためだそうだ。なんといっても豊かな雪里。しかも田舎暮らしをテーマにした天井の高い木造。彼らを駆逐するするのは難しい話だ。「踏まないように気をつけて」ではなく「踏んでしまってもいいように」スリッパを進めてくる感じ、嫌いじゃない。

 

ここまで「田舎のおもてなし」を徹底してきた。もしかして客室にも、他にも趣向を凝らした“田舎部屋”みたいなものがあるかもしれない。孫からおじいちゃんまで3世帯で滞在したら、あの部屋では狭すぎるし。

 

「新館に普通の客室もあります」

 

え!?

 

こちらはコヤナギが宿泊している部屋と同じ、本館にあるトイレ共同タイプ。

すごく身近な感じがして悪くはない。コンパクトな部屋すぐに暖まるし。

 

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そして別館へ移動すると……あれ?

なんか、雰囲気が違う。

 

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「こちらの部屋は“利休”と名付けられていて、ちょっとおもしろい仕掛けがあります」

 

 

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……ひろい!

なに!? 手前の部屋、なに用の部屋!?

 

「これは雪見障子といって、日の光を遮りながら、雪を眺めることが出来ます」

 

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縁側(旅館の窓際にある広めの板の間は「広縁(ひろえん)」というらしいけど)まであって、めちゃめちゃ気持ちよい、と、この写真を撮って後ろを振り返ると、あれ!? 入り口があるぞ。

そこにには小さな部屋が。

 

むむっ。なんとこれ……茶室!

 

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「他にも角のお部屋は、窓が大きくて気持ちいいでしょうね」と見せていただくと……

 

気持ちいい!!!

 

 

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……なんだか、これらの部屋を見るとやっぱり「こっちの方がよかったな」なんて気持ちも、沸いてこなくもない。

いや、いいよ? きっと「田舎暮らし」」をテーマにした宿として、あの古民家風情が宿としてオススメってことですよね? それに、こちらのお部屋だとお高いんでしょう?

 

聞けば、食事などのサービスはトイレ共同タイプとまったく同じで、差額はひとり5000円。

 

5000円かー……。

うーん。悩ましい。

 

帰り際に創業社長の林さんにお会いできた。

 

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早口の新潟弁が小気味よい、ぶっきらぼうだけど面倒見がいい感じの方だった。

温泉ビューティー研究家の石井宏子さんの聞き出し力によると「社長がお気に入りの秘湯の宿は、仙仁温泉 岩の湯。尊敬する人は、習近平さん。」とのこと。

 

心づくしのおもてなし、ありが湯〜ございました(石井さんがよくSNSで書き込むお湯言葉)。

 

 

 

大沢山温泉大沢館(日本秘湯を守る会認定宿)

949-6361 新潟県南魚沼市大沢1170

TEL: 025-783-3773

FAX: 025-783-4777

ウェブページがないようなので、予約はお電話で。

 

Special Thanks

この取材は一般社団法人プレスマンユニオン主催の雪国観光圏プレスツアーで訪れ、交通・宿泊・飲食費をご負担いただきました。記事の監修・編集は受けておらず、金銭は発生しておりません。感想はコヤナギ自身の主観によるものです。

また執筆依頼もないため、自主的に記事化したものであり、PR記事ではありません。

取材にご協力いただいた大沢山温泉大沢館様、ありがとうございました。

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Photo by Ukoara
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