紙を手作りしていた時代、紙作りは冬の仕事だったそうだ。
いまみたいに「牛乳パック」の再利用で紙すきなんてもちろん出来ないから、木を育て、蒸し、皮を剥ぎ、茹でて、叩いて、線維を作り、やっと紙すきをする。
和紙の素晴らしさって、なんなんだろう。
伝統を守るのは、なぜなのだろう。
雪国観光圏の紡ぎ方(開く)
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原材料作りから体験できる和紙工房「伊沢和紙工房 欅(けやき) 」
かなり山深いところに立派な建物が建っている。
「伊沢和紙工房」という看板を掲げ、地名を犬伏(いぬぶせ)というらしい。
ここではひとりの職人さんが、伝統的な手法で和紙をつくっており、体験の受け入れもしている。
教えてくれたのは、この土地の出身だというたったひとりの伊沢和紙職人、山本さん。
原材料となるのは、山本さんが持っている細長い「楮(コウゾ)」という木。使うのは白皮の部分だ。
11月に刈り入れて原木ごと2時間蒸し、表皮を剥ぐ。
干して水分を飛ばしたら、また水につけてやわらかくし、包丁で表面の茶色い皮を削り取り、また乾燥する。
そうして残った白皮を、さらに白くするために「雪さらし」も行うそうだ。
和紙の原料作りはまだまだ続く。
雪さらしで漂白した白皮を取り込んだら更に煮る。
「紙煮」といって、炭酸灰をまぜ繊維を分解するのだ。
その後、水で何度か洗いながしあく抜き。
不純物を取り除いた繊維を叩き、柔らかくしていく。
これでやっと、よくみる「紙すき」の原料完成だ。
時間があれば、伊沢紙工房では収穫や皮剥の体験も出来るとのこと。
季節によって仕事の内容は変わるので、要問い合わせ。
繊維が長くて強い和紙、それを複雑に絡み合わせる「流し漉き」
さて、いよいよよく見る「紙すき」体験だ。
まずは山本さんのお手本を見せてもらった。
和紙と洋紙の違いはその強さ。
和紙は繊維が長いため、薄くても破れにくく、その精度の高さは絵画の修復作業にも使われているほど。
水が波のように勢いよく跳ねる。
これは「流し漉き」といって、水を攪拌しながら漉くことで、繊維が複雑に絡み合いより強い和紙が生まれるのだ。
余分な水分を吸引して圧搾。
色が変わって、紙らしくなってきた。
60度ほどのお湯が循環している鉄板乾燥機に貼り付ければ、アイロン掛けしたように真っ平らな紙が10分ほどで完成する。
原木となるコウゾの収穫からの手間に考えれば、紙すき作業なんて本当に最後の工程に感じる。
いちばん美味しいところだけを、体験させてもらおう。
めっちゃ難しい。でも、失敗しても、それは個性!
いわせて欲しい、真剣にやった。
山本さんのように波立たせようと枠をどんなに揺すってみても、あんなサーフィンできそうな波が出来ない。
おまけにしつこく揺すってしまったから、紙の端がよれてしまって、これは「商品」にはならないだろう。
紙すき職人の「職人技」の難しさがよく分かる体験だった。
ただ、体験者としては失敗してしまったほうが、自分だけのかけがえのない一枚になる。
ずっと見ていたら、なんだかよれてしまった部分もなかなか良いような気がしてきた。
欠点だって個性なのだ。
「欅(けやき)」に込められた想い
体験を終え家に帰り、さぁ原稿を書こうと思ってはたと気がついた。
和紙をつくる原料は「楮(こうぞ)」なのに、施設名が「伊沢和紙工房 欅(けやき)」だ。
なぜ?
山本さん「この和紙工房が出来る前、地域に出来ることはないかと有志で活動していた“けやきの会”というひとたちがいるんです。彼らの活動が礎となって、伊沢和紙工房はあるので、この施設の名前には“欅”がついています。欅の木は堅く、家の大黒柱に利用されます。大黒柱はふだん表に出て見えることはあまりないかも知れないけれど、見えないところで支えていて暮れるんです。実際に“けやきの会”は、いまも原料作りでお手伝いしてもらっています」
伝統の継承は、人と人との結びつきが大切なのだ。
それはまるで、和紙の繊維のように。
伊沢和紙工房
新潟県新潟県十日町市犬伏143
TEL:025-595-6692
受付時間:平日8:00〜17:00
体験代:800円(個人)※一週間前に予約のこと
観光局が作成したサイト「伊沢和紙工房 欅-けやき-」
職人の山本さんが運営されている「伊沢和紙工房ホームページ」
年間を通して和紙作りの様子がよく分かる山本さんのブログ「みつひろ徒然ブログ」
Special Thanks
この取材は一般社団法人プレスマンユニオン主催の雪国観光圏プレスツアーで訪れ、交通・宿泊・飲食費をご負担いただきました。記事の監修・編集は受けておらず、金銭は発生しておりません。感想はコヤナギ自身の主観によるものです。
また執筆依頼もないため、自主的に記事化したものであり、PR記事ではありません。
取材にご協力いただいた伊沢和紙工房様、ありがとうございました。
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