TRIP

DAY1: 黄金のピルスナー・ビール発祥地
チェコのPlzeň(プルゼーニュ)に行こう!

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SUCCESS!
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冬チェコ取材へやって来て、最初に訪れた街は「Plzeň(プルゼーニュ)」

チェコ語読みをコヤナギが耳コピすると「プルゼーニュ」って聞こえるけれど、「プルゼニュ」って書かれることが多いみたい。iPhoneの天気予報には「プルゼニ」って書いてあったけど、これはドイツ語読み。コヤナギは旅情を高めたいから、チェコ語を耳コピした「プルゼーニュ」って呼ぶね。

ほどよい規模感の町プルゼーニュ。突き当たりにアールデコ建築とルネサンス建築が並んでる
ほどよい規模感の町プルゼーニュ。突き当たりにアールデコ建築とルネサンス建築が並んでる

プラハ空港からバスで2時間ほど。チェコの東にあるプルゼーニュは「下面発酵」という独自の製法を産みだしピルスナー・ビール発祥の地として有名。チェコの中では4番目に大きな街……とはいえ見所が一箇所に集まっているせいか、足で歩いて回るのにちょうどよくサイズ感なのだ。

地下道を利用したイタリアンレストランでランチ
The Restaurant Rango in the underground

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一見普通のイタリアンレストラン。え? チェコ最初の食事がイタリアンなの? そう、ここで一番見て欲しいのはその内装。なんだか、ゴツゴツとしていると思いません? 実は、ここは元地下道。プルゼーニュの地下に網の目のような地下道が張り巡らされており、主に食料庫として利用されていたそう。周辺を流れる川の水をくみ上げるシステムが地下道内にあり、昔から街の人は水の心配をせずに暮らせたとか。現在、地下道は閉鎖されているところもあるものの、観光ルートとして「地下道博物館」もあるらしい。でも、雰囲気だけ感じたければレストランの食事をいただきながらの鑑賞がスマートかもしれない。

ぶらりプルゼーニュ歩き

ガイドのバーラ・ジヴナーさんが合流して町歩き。出発地点は共和党広場から。周辺建物の高さや色味が統一されており、全体的に調和がとれていることが特徴。よく見るとルネサンス建築やバロック建築などが時代背景もまぜこぜに隣接している。広場には金色の抽象的なモニュメントが建っており、天使、犬(グレイハウンド)、ラクダを表してしているらしい。コヤナギが行ったときはクリスマスマーケットが建っていた。

共和党広場・聖バルトロミェイ大聖堂

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広場に鎮座しているゴシック建築の教会は聖バルトロミェイ大聖堂。尖塔としてチェコ国内で一番背が高い。

ベドジハ・スメタニ通り

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「わが祖国」作曲者のスメタニが通った高校を横目にベドジハ・スメタニ通りを進み、また小さなクリスマスマーケットをすり抜ける。

建築家アドルフ・ロースの家

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「ヨーロッパでもっとも偉大建築家」というアドルフ・ロースが設計した家を見学。19世紀、キュピズムやアールデコなどまだまだ豪華絢爛な建築が主流の中「装飾は罪悪である」と主張したモダニズムの先駆者。……いやもちろんわたしみたいなもんは行くまで知りませんでしたけどね。

J.Kタイラー劇場とヨーロッパ最大級のシナゴーグ

写真はJ.Kタイラー劇場。プルゼーニュのみならず、チェコは各町に1つは劇場がある気がする。オペラやバレエなど、芸術が市民に身近なのだなと思った。その左後ろに映り込んでいるのは、ヨーロッパで2番目に大きいといわれるシナゴーグ(ユダヤ人教会)。ピンクの壁がかわいらしいけれど、現在教徒は3人しかいないとの噂。贅沢すぎない!?

ビール博物館 The Brewery museumからの乾杯!

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街の一角に小さなビール博物館があるのだけれど、なんだかほっこりしてしまう。プルゼーニュでは13世紀からピール作りを始めており、ここは15世紀のモルトハウスを改築したところ。18世紀にピルスナービールが発明されるまで、小さなブルワリーがそれぞれ独自にビールを造っており、品質もバラバラだったとか。その分試行錯誤の歴史が記されているのだろうけれど、説明書きがチェコ語で分からないというのもあり、飲んだくれの蝋人形や、麦焙煎体験風の写真が撮れるフォトスポット、顔と身体の比率が合っていない顔ハメパネルなど全体的にゆるい。(そこがいい)

半券はランチを食べたRangoの隣の店でビールに交換してくれるので、見学のあとは乾杯しよう! チェコ語で乾杯は「ナーズドラヴィ!」だぞ。

フォトジェニックなクリスマスマーケット

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コヤナギが訪れたのは12月6日。チェコでは11月29日から12月末まで至るところでクリスマスマーケットが開かれている。東京でみるクリスマスマーケットはオシャレな商業施設の催事って感じだけど、チェコのクリスマスマーケットは例えるならお祭りの出店。規模も気合いの入り具合もさまざまで、ちょっと広場があればお店が出ている。ただ、チェコで見てきたクリスマスマーケットの中で、一番写真を撮りやすかったのがここプルゼニュ共和党広場のクリスマスマーケット。大きなツリーと素朴な「ベツレヘム(キリスト降誕模型)」、幸せの鐘やメリーゴーランド、鍛冶屋などのポイントがすべてあり、それでいてコンパクトで混んでいない! 夕暮れ時も美しいけれど、日がとっぷり暮れてから、ファインダーから目を離し、両手で包んでいただくホットワインがおいしかったよ。

薄暗い居酒屋で夕飯  Stará sladovna

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海外旅行をしていていつも驚くのは夜道が暗いこと。幸い、わたしは暗いところが大好きなので、怖くはないが夜の暗さを楽しめるのが好きだ。チェコも例外なく、夜道は東京と比べ暗く、お店もやっているのかどうか分からない控えめさで、店内も暗い。しかし人の目は慣れるもので、テーブルで揺らめくキャンドルがまぶしく感じるころ、昼には食べられなかった伝統的なチェコ料理をオーダー。しかし、1人前が多い! チェコの人は老若男女問わず(日本人に比べれば)大食いらしいのだけれど、太っている人が少ないんだよね。いわく、スナックや砂糖菓子などを小さい頃からあまり食べないそう。他においしいものがたくさんある証拠だね。

腹ごなしに夜散歩

芝が霜だらけ

チェコは治安がいい。もちろん、最低限の防犯意識は必要だけれど、女ひとりでは歩けない、なんてことはない。街がコンパクトだから昼間歩いたところが覚えやすく、夜の景色を見て回った。まだ1日目。夜に包まれてイルミネーションに導かれながら歩くのが楽しくて、寒さを忘れてしまった。

モダンなホテル The hotel angelo

今回はエグゼクティブフロアの部屋だった

駅からも近く、ピルスナー・ウルケルの醸造所となりにあるため交通の便もいいシティホテルが最初の宿。赤と黒を基調とし、モダンで清潔。散歩から帰るとバーでみんなが飲んでいたので、いそいそと荷物を下ろして合流。長いフライトで疲れているはずなのに、1日目から時間が惜しい。

明日はさっそく、ピルスナー・ウルケルの醸造所の見学とプラハ入り!

エッセイ:「装飾は罪悪」的な金色の白鳥

寒さ対策には自信がある。
新潟出身だからというのもあるし、カナダのイエローナイフで「オーロラ王国ブロガー観光大使」として-36度の世界を楽しんだから、という自負がある。
チェコはもちろん、ヨーロッパ旅行自体が初めてだけれど、冬はとても寒いと聞いている。そりゃ、気温的にはイエローナイフほどではないにしろ、謎の「新潟より東京の方が寒い※」現象のようなもの起こっているのかもしれないと考えた。
※ 北国新潟出身者はだいたい「東京の方が新潟より寒い、東京砂漠……」という

結論から言うと思っていたほど寒くなかった。
12月上旬だったから、まだ本気の冬でなかったおかげもある。用意した半分以上の防寒着は出番がなかった。なにより室内が暑いのだ。都市部だから外にいる時間は思っている以上に短い。風を通さないコートと手袋、石畳の冷気をシャットアウトするブーツがあれば快適だった。

プルゼーニュに到着して、まずはホテルにチェックイン。
大きな道路沿いで向かいに立派な門が見えるが(のちにそれがピルスナーウルケル工場の入り口だと知る)、とりたてて外国っぽい個性を感じないありふれた幹線道路沿いの風景だと思った。「街並みがかわいい」と聞いて、期待しすぎてしまったと思った。ホテルも都会的なビジネスホテルだったせいもあるかもしれない。部屋に荷物を置いて、飛行機用のゆったりとした洋服から冬の町歩き用の装備に着替え、いざ出陣。最初の目的地はランチだ。

大きな道路沿いに歩き、大きな交差点を渡ると風景は一変。道は車二台がぎりぎりすれ違えるかなというほどグッと細くなり、石造りの建物に囲まれた。よかった、噂に違わぬ異国情緒だ。
道行くひとたちも誰が観光客で、地元の人なのかさっぱり見分けがつかない。そもそも人数も多くなく、浮かれているような人がいなくて、築年数の数だけどっしりと落ち着いている西洋建築に向かってカメラを向けるわたしたちだけが異質だった。

地下道だったというレストランでは鹿(バイオレットという、紫色ではない)バーガーを食べた。イタリアンレストランというから、パスタでも良かったんだけど、どうも旅貧乏心が働いて、日本では食べられないものから選んでしまう。鹿肉はあっさりとして噛み応えがあり、たいがいスパイスがきいている。フランスパンのような表面がかりっとしたバンズに包まれていてとても相性が良かった。

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食事のあとは町歩きになり、石畳の路地を進んでいく。時折路面電車(トラムと呼ぶ)がやってきて、道を空ける。なだらかな坂を登り切ると、開けた場所に出た。共和党広場だ。

長方形の広場を、ぐるっと建物が囲んでいるが、どれも高さが近しく、それでいて1つ1つ色や形が違う。それは、ボートハウスのようなカラフルさではなく、クリームイエローやサーモンピンク、ベビーブルーにスモーキーグレーとロマンチックな階調で整えられており、あまりに上手くできすぎていて「ディズニーランドみたい」と口走った。

スメタナ通りに入り、スメタナが通っていたという高校を横切る。当時そこは男子校で、この通りで向かいの女子校に通っていた彼女にこの通りで自作の曲を贈ってプロポーズしたとか。有名になるとそんな個人的なことまで語り継がれて大変だな。

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しばらく歩くとまた近代的な通り出でてきて、無骨なビルの中に入る。大きな石造りの建物だけれど、過度な装飾などはない雑居ビルといったところ。内部は改築を繰り返したのか廊下が曲がりくねっていて、たくさんの鉄の扉にはシンプルな表札がでていた。どうやらスタートアップなどのSOHOが集まっている様子だ。一番奥に木製の扉があった。どっちかというと簡素な印象を受ける。学校の視聴覚室のような、愛想のない扉だ。受付でもらった鍵を差し入れ扉を開けると、直線的な空間があった。
そこは「ヨーロッパで一番偉大」だというアドルフ・ロースが設計した医師の自宅だという。アドルフ・ロースとは19世紀末から20世紀初頭に活躍した建築家だ。アメリカで建築を学び、シカゴの高層ビル群に感銘を受けて機能美を愛し、「装飾は罪悪である」という言葉を残した。

「装飾は罪悪」
そう主張するならばどれだけ無機質なのだろうと思ったけれど、どうやら「装飾」とはそういうことではないらしい。歴史ある建築文化を築いてきたヨーロッパでは、そのとき流行の様式で部屋を飾っていくことに貴族たちは熱中していた。ゴシック、ルネサンス、ロマネスクなど、インテリアの様式も1つのものに絞り込み、それ以外のものを入れるとちぐはぐになってしまう。たとえば、アールデコ様式にゴシック様式は盛り込めない、といった具合だ。アドルフはこれを「装飾」といい、1つの様式でしか統一できないことを含めて「罪悪」と指したそうだ。また、ゴテゴテと飾り立てることは自己実現の一種で「性的衝動と同じ」とし、知識層であるならば普段は隠しておくべきだと主張した。主役は装飾ではなくそこに暮らす人間なのだから、と。

機能美を求め日用品から過度な装飾を排除するということは、裏を返せば必要なものは残すということ。だから装飾にとらわれすぎて思い入れのある家具を置けなくなることも罪悪なのだ。
そのせいか、この部屋はちょっとちぐはぐな印象を受けた。アールデコ調の新聞椅子があれば、床にはペルシャ絨毯が敷かれ、壁には浮世絵が掛かっていた。でも、これがアドルフの必要なものなのだろう。
ダイニングの入り口にデコラティブな白鳥が羽ばたく金色のろうそく立てがあった。
「これは家主の奥さんがどうしても壁に掛けたいと言ったのですが、アドルフは気に入っておらず、なるべく目立たないように壁も金色にしたんです」
奥さんのお気に入りも、アドルフにとっては必要なものなのだ。

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夕飯にいよいよ初のチェコ料理をいただく。
思っていたほど寒くはないといったものの、暗くなるまで歩いていたからホットワインが身にしみる。
大きなスペアリブのかたまりにピクルスと薩摩揚げのようなスナックがついていた。スペアリブのかたまりをひとつとって、骨と骨の間の肉にかぶりつく。こんがりとローストされた表面にナイフを入れるとカリッと薄皮がはじけ、うま味の詰まった肉が赤黒く光っている。口に運べば期待を裏切らないうま味が詰まっており、なるほど、これは、ビールが飲みたい。
口の中が肉のうま味で満たされた頃合いに、付け合わせのザワークラウトを食べよう。完璧な化学反応が口の中で楽しめる。オセロの黒から白にすべてひっくり返るような清涼感。肉厚なパプリカのピクルスもいい。主食は「茹でパン」といわれるクネドリーキ(英語でダンプリング)。ヨーロッパの硬いパンをちぎって加え、再度小麦粉などと混ぜて再度発酵、20分ほど茹でて加熱するというもの。食感は茹でているだけあってカリッとした部分はないものの、想像を裏切るふわふわモチモチ感。蒸しパンに近い。典型的なチェコの家庭料理なのでお店の個性も出やすく、ここは混ぜられたパンの形状が残っているタイプ。2つの食感が楽しめてこれもいい。

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食事を終えて店を出る。長かった「今日」という日がやっと終わる。比喩ではなく、日本からイスタンブールを経由した時差の関係で、わたしたちにとってこの12/6は36時間あった。でも、終わりが見えると惜しくなるもの。まっすぐホテルに帰るのはやめ、ひとりで町を歩くことにした。

まずはクリスマスマーケットに滑り込んで、ホットワインを飲む。マーケットではチェコ語しか通じないけれど、どうせわたしは英語も話せないからちょうどいい。身振り手振りでオーダーして、思ったとおりのものが頼めなくてもそれはそれでひとつの出会いだ。レストランで赤のホットワインを飲んだから、白のホットワインをお願いした。今回は、運良く思ったワインを手にできたけど。
マーケットはほとんど閉まっており、ワインスタンドがある一角だけまばらに人が集まっていたが、それもカウンタに蛇腹のようなとを巻き付け始めて閉店の準備をしていた。真っ暗になったマーケットを見るのは淋しそうだ。マーケットのぬくもりある灯りがすべて消えてしまわないうちに、町の方へ歩き始めることとしよう。昼間通った道を逆の順序で歩いて行く。町が小さいから意外と道を覚えていた。まぁ、迷ってもGoogleマップがあるしね。時間で言えばまだ21時くらいだけれど、出歩く人はまばらで、イルミネーションだけがきらめいている。異国の旅先、夜の町、人のいない交差点、少しの不安と緊張感は中毒性のあるスパイスだ。

霜が降りた芝生の上を歩くと、シャリシャリという独特の音がした。胸の奥がキーンと響くに合わせてカメラのシャッターを押す。うまくとれているかどうかはこの際関係ない。こんな時のカメラなんて、一人で出歩くいいわけにすぎない。冷気を帯びた空気を鼻から吸い込む。チェコの空気を肺にいっぱい入れて、持って帰れたらいいのに。旅の初日からもう寂しくなっていることに気がつき、というかまだ初日だと我に返り、ホテルに戻ることにした。旅はまだまだこれからなのだ、体力を回復させなければ。

時間を確かめようとiPhoneを取り出すと、今回のブロガーツアーメンバーでつくったLINEグループに投稿があった。どうやらみんなホテルのバーで飲んでいるらしい。そういえば、今回の部屋にはバーで1杯無料になるバウチャー券がついていた。でも今日はまだ旅の初日。気がつけばけっこう疲れている。合理的に考えれば、休むべきだろう。

アドルフ・ロースの言葉がふいに思い出された。
「装飾は罪悪」、家の主役は住人ならば、旅の主役はわたしだろう。先々を考えて合理的であることも大切だけど、必要なものを優先することも機能美なのだ。だから、ビールにしようか、シャンパンにしようか。ホテルに向かう道の中で、旅の初日の高揚を祝う「装飾は罪悪」的な金の白鳥を選んでいた。

Special Thanks:チェコ共和国観光局、Linkトラベラーズ

“冬こそチェコへ行こう”リスト

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