旅に出たくなるのは、だいたい一枚の写真からだ。
ネットやパンフレットで触れた、抜けのある一枚の写真がこの世のものだと思えなくて、それを確かめに行きたくなる。
だから、「日本人は答え合わせの旅が好きだ」とか「同じような写真を撮りたがる観光客」なんて揶揄されても、「あの一枚」を求めて旅に出る。ただなんとなく、思い出しただけで胸が高鳴るような絶景をこの目で確かめたい。旅する理由はそれで良い。
「水木しげるロード」で知られる鳥取県の県境にある境港から、フェリーで2時間。
日本海に浮かぶ隠岐(おき)諸島の「西ノ島(にしのしま)」にやってきた。
東京からの乗り継ぎだと、陸路でも空路でも島に着く頃には紅の時間になる。
隠岐ユネスコ世界ジオパーク
隠岐諸島は大小180あまりの島々が集まった群島型離島で、その中でも人が暮らす大きめの島を「島前(とうぜん)」「島後(とうご)」と呼ぶ。島後とよばれる沖の島町は一つの大きな島で空港もあることから、観光で訪れやすく、巨木や奇岩、滝などが人気だ。
対して手前の小さな島々が3つ、相談でもするように集まった島前は上陸手段がフェリーしかない。3つの島の名前は中ノ島(なかのしま)の海士町(あまちょう)、知夫里島(ちぶりじま)の知夫村(ちぶむら)、そして西ノ島。
交通手段が限られる島はその島らしさを保っており、島の文化や風景に惹かれ年々移住者が集まっているという。
「ユネスコ世界ジオパーク」という取り組みをご存じだろうか。
世界遺産登録も行っているユネスコが支援する「地球を知ることができる場所」が「ジオパーク」に認定される。
隠岐諸島は離島がゆえの独特の地質を持ち、固有植物などの独自の生態系や、山陰地方の歴史的文化の反映など「大地の成り立ち」「独自の生態系」「人の営み」の3つの要素から世界ジオパークとして認定されている。
なかでも西ノ島はかつての噴火の中央火口丘である「焼火山(たくひやま)」を持ち、カルデラ(火山活動でできた大きなくぼみ地形)を望むことができる。
古代から海上運航の守護神だった焼火神社
まずは高いところから島を把握してみるのも良いだろう。
焼火山の中腹に隠岐諸島で最古の神社がある。隠岐への航海中に遭難しかけた鳥羽天皇が焼火山の御神火に導かれたと伝えられ、江戸時代には北前船の名勝地として安藤広重・葛飾北斎の浮世絵にも描かれている。
そんな由緒ある神社の旧参道も時間とともに忘れ去れたていたけれど、この度ハイキングコースとしての整備が決定。2時間程度の森林浴は足慣らしにぴったりだ。
参道の成り立ちや植生についてガイドさんに案内してもらうとより楽しい。
フェリー乗り場の案内所でお願いすることができる。
カルデラを望んだら、今度は燃火神社を目指そう。
社務所ではお手洗いなどを借りれるほか、宮司さんがいれば絶景を眺めながらお抹茶をいただくこともできる。
絶景のその先へ行ける、国賀海岸の摩天崖
火山活動の繰り返しによって隆起した隠岐諸島は、ダイナミックな崖の絶景がアイコニックだ。
中でも西ノ島西北にある「国賀(くにが)海岸」は、海面257mの海蝕崖「摩天崖(まてんがい)」や、巨大なカバが水を飲んでいるような奇岩「通天橋(つうてんきょう)」がある。
切り立った摩天崖の柵から崖を見下ろすと、目がくらむほどの高さだ。
日本国内とは思えないすがすがしい風景を目にし、立ち去るのはまだ早い。
なんと、この崖、下れる。
この柵の左端から、“一生に一度は訪れたい「遊歩道百選」”を歩くことができるのだ。
まさに、夢にまで見た「絶景」のその先へ、足を進めることができる。
片道およそ60分。ふもとの駐車場兼バス停を目指す下りのコースがおすすめだ。
道はなだらかで歩き慣れていない人も気がついたら歩き終わってしまって残念がることだろう。
ここはいまも「牧畑(まきはた)」農業として馬や牛が放牧され、思い思いに草を食み、時を過ごしている。
国賀海岸に来たら、ぜひ島の植物にも注目して欲しい。
崖を散歩していて印象に残る銀色の葉っぱはアキグミだ。
低木の木は風をしのぎ、牛や馬たちの隠れ家になるほか、整腸作用にも役立っているという。
野性味のある甘さ
島で見るセンニンソウは神秘的だ
ほかにも「旅する理由になる絶景」を楽しむ方法がある。
別の確度からその絶景を見ることだ。
たとえば摩天崖なら、対岸の赤尾展望所から眺めてみたり、まだ足を踏み入れる人が少ない鬼舞展望所からカルデラを眺めたり。
また、最近できたオシャレなカフェをチェックするのもいいだろう。お土産には何を買うべきか。wi-fi完備のきれいな図書館とか、イカが吸い寄せられる不思議な入り江とか、もちろんきれいな夜空とか。
伝えたいことはまだまだあるけれど、今日はひとまずここまでに。
旅する理由になる絶景の、その先へ行ける場所がある。
そのことだけを、とりあえず今回は覚えておいて欲しい。
Special Thanks
この取材は一般社団法人プレスマンユニオン主催のプレスツアーで訪れ、交通・宿泊・飲食費をご負担いただきました。記事の監修・編集は受けておらず、金銭は発生しておりません。感想はコヤナギ自身の主観によるものです。
また執筆依頼もないため、自主的に記事化したものであり、PR記事ではありません。