福岡県と大分県の県境にある「上毛町(こうげまち)」へ行ってきました。
今回の目的は「ホタルの撮影」だったんだけど、例のごとくサービ精神たっぷりなみなさまの歓迎により、大変楽しく暮らせました。
上毛町は地域活性の一貫として、民官ともに様々な活動に取り組んでいます。
すでにある企業やサービスのブラッシュアップを行ったり、移住者促進のために交流サロンを作ったり。
「上毛町」は、はっきり言って「どこにでもある田舎」だと思うけれど、移住者を受け入れよう、歓迎しようって気持ちが地域からも起こっていて、それでいて地に足のついている「ここにしかない田舎」だと思います。
そんな上毛町の魅力が、漠然とした「田舎暮らし」に憧れている人に届いたら良いなぁと思って、写真を撮りました。
……ちょっと多過ぎるけど。
美味しいコーヒーを用意して、ゆったりした気持ちで眺めてください。
6月7日。
福岡空港で友人の出迎えを受け、そのまま電車で中津駅へ。
レンタカーを借りて最初に到着したのは元・東上小学校のコミュニティスペース。
そこでミニコンサートが行われようとしていた。
今回の上毛町行きが決定して、一番最初に電話したのは「上毛町ファンクラブ」だった。
ギリギリまで(もう、正確には出発当日まで)行けるかどうか分らなくて、モヤモヤした気持ちで上毛町のホタルについて検索していた。
すると地域で「ホタルウォーク」という催し物があるという。
さっそく参加のため電話する。
チャッキチャキで元気のよいおばさまが出て、ブログを見て電話した旨を伝えると、喜んでもらえた。
「ホタルウォークに参加したいんですが、どこに行けば良いんですか?」
『どこから来るの?』
「と、東京です」
『はぁ!?』
どうやら彼女はこの企画の首謀者らしく、東京からホタルウォークに参加する私のことを歓迎してくださった。
『私ね、当日ライブやるから』
「え、出演するんですか? 見たいです!」
『見て! 見て!』
約束を叶えるため、慣れない車の運転も頑張って、開演前に到着した。
もちろん、イベントは「ホタルウォーク」なので、中津からホタルに詳しい先生がいらっしゃって、ホタルに関する基礎知識を教えてくださった。
イベントを影で支えるのは移住組の若手だ。
博多から移住して3年は経つ「ミッチー」は、すっかり地元の頼れる若者になっていた。
パシャパシャ!
(きっと上毛町の雇用促進を行っている「こうげのシゴト」のサイトでレポートでも書くのだろう……と思ったら、未だに乗ってないので、個人的なお手伝いかもしれない)
ブラスバンドによる素敵な演奏や、オカリナのような古代笛の演奏にはほっこりとしたけれど、若者がグランドピアノを轟かせたラフマニノフの演奏は、あまりの上手さに度肝抜き過ぎて笑ってしまった。人は驚くと笑うのだ。(と思ってる)
木造の廃校に流れるクオリティじゃない。
20時近くになって太陽も沈み、ウォークは始まった。
上毛町には放射線状に4つの谷があり、その中の「左から2番目」の谷にある「東友枝川」を登っていく。
真っ暗な中、地域の過多とお喋りしながら歩いていく。
顔もよく見えないし、いうなれば知らない人だ。
けれど、目的が同じなだけで、ほっとする。
3.40分ほど歩いただろうか。
真っ暗な雑木林にひかえめなイルミネーションが灯っていた。
ホタルである。
初めて見たホタルは、思っていたより「多かった」。
こんなにイルミネーションみたいに広範囲に光っていると思わなかった。
不思議なのはみんな離ればなれの個体のはずなのに、息を合わせるように、いっせいにほぅほぅっと光るのだ。
オスは舞って優位性をみせて、メスは待つ。
呼吸を合わせて光る。
暗闇に目を凝らしていると、まるで宇宙のようだった。
あの銀河に、突入してみたい。
6月8日、2日目。
今回は久しぶりに「雁股庵(かりまたあん)」に滞在だ。
雁股庵は、4つの谷の右から2番目「友枝川」の上流に位置する大入集落にある築100年の古民家だ。
長く暮らしている人は居らず、オーナーの吉本さんが農作業の合間に休んだり、
夏場の別荘として利用しているくらいだったため、
電気は通っているけれど電話はない。
谷間なのでケータイ電話も圏外だ。
おまけに、地元の人でも滅多に来ることのない山深さなので、私は「上毛町の秘境」と呼んでいる。
ここには初めて上毛町に来た時に、1ヵ月近く滞在させていただいたのだ。
私にとって上毛町=雁股庵といってもいい。
現在は民泊を行っており、口コミで宿泊することができる。
この日は福岡から合流した小室氏も泊まっていった。
家族じゃない面子と迎える、この夏休みの朝っぽさが好きだ。
「ホタル族」してる小説家の三谷さん。
雁股庵外観。
雁股庵の立派な庭には、ツツジが見頃を迎えていた。
↑向いの水田。
三谷さんが作ってくれた朝ご飯。
雁股庵から5分ほど山を登っていたところに、砂防堤があるのだが、ここの地名がなんと「山の神」と神々しい。
しかも神々しいだけでなく、清々しい。
よく見るとヘーベルハウスみたいな顔をしてる。
(なんか生き物の写真ばっかり撮ってたな、今回)
雁股庵にはオーナーお手製の「茶室」が2つあるのだが、この春3つめが完成した。
これが「日曜大工」だなんて……!
午後はもう1つの「築100年の古民家」にお邪魔した。
4つある谷の、いちばん左、巣猟谷(すがりだに)の有田集落にある「田舎暮らし研究サロン(愛称:みらいのシカケ)」だ。
こちらも「手作り」だが、学生などの完全な未経験・シロウトによるD.I.Y!
このシャレた田舎を仕掛けているプロデューサーの江副さんもいらしてくれて、なんだか、みんなで、のんびり。
前回の滞在でお世話になったあゆみちゃんときなこも来てくれた。
(ちゃんとブログ書いてないことに今気がついたー! 良い写真いっぱい撮ったのに!!!)
お夕食は雁股庵へもどり、オーナーの吉本さんご一家と手作りピザ。
野草ピザにも挑戦してみたよ。
左は山椒、右はよもぎ。
見えないけど、ユキノシタも摘んだ。
野草の味が立つように、オリーブオイルと塩こしょうで。
野草は焼いたら縮まるので、もっともっと載せて良い。
ユキノシタが美味しかった。
また好物が1つ増えた。
夜は小室氏を中津駅まで送っていって、吉本さんご一家とホタル鑑賞。
今度は友枝地区の廃校を利用した施設「ゆいきらら」で友枝川中流のホタル鑑賞。
東上より少し近い印象で、道路から離れているため車通りが少なく見やすかった。
6月9日。
翌日、野暮用で上毛町を少し留守にする。
(お邪魔してるのに「留守にする」って変だけど。要はまた戻ってくる)
そのまえに、ちょっとシゴトを片付けるため、ミラノシカでお仕事。
気持ちよい窓辺でカチコチ。
高学歴用務員と化している地域おこし協力隊の西塔さん。
1年前に移住してきて、確か山形出身だったような。
土間には梅とびわ。
この「田舎暮らし研究サロン」は「DesignBuildFUKUOKA」という取り組みで作られた。
体験型学習として、建築を学ぶ学生&U29を対象に、デザインから提案、設計、施工まで行わせる建築人材育成プログラムだ。
とっても聞こえは良いが、要はシロウト。
そして、色々な紆余曲折があって現場の大人は「高学歴の用務員」西塔さんひとりになってしまった。
そこでは笑えないようなトラブルが多発し、施工は遅れ、柱一本立てるのさえママならなかったらしい。
上の写真はそんな「最初の仕事」である、一本目の柱だ。
実際の話しは、ぜひ西塔さん本人から聞いて欲しい。
この写真が実に味わい深いものになるだろう。
色々な意味で、地域の方の協力なしに、なし得なかったことの象徴的建物とも言える。
(これまた地域の方が持ってきたというメダカが入口で泳ぐ。噂によると高価で珍しいメダカらしい)
そんな「田舎暮らし研究(交流)サロン」の利用者1号2号になることができて光栄だ。
……ここから数日とび、帰ってきたのは6月11日の夜。
今度はひとりで帰ってきた。
あの「秘境」の雁股庵で一人暮らし。
疲れているはずだったけど、レンタカーで山を登っていると、ホタルが見えた。
するとまた思った。
「飛び込みたい」
あの銀河に、飛び込みたい。
そう思うと居ても立ってもいられなかった。
なんせこちとらひとりだ。
気を使う相手がいない。
そう思うと気が楽なってしまうのだ。
マムシ対策に長靴を履いて、レインスーツを着て、三脚を担ぎ、大入集落ふもとの大入貴船神社へ向う。
途中、集落の方に出会い、お互いにおののいてしまった。
「マムシに気をつけるんだよ」
「はーい、ありがとうございます~」
怪しいはずなのに、気さくに見送ってくださる。
……女に生まれて良かったと、つくづく感じる瞬間だ。
私は夜目が利く方だ。
ちょっとの月明かりでもキャッチして、ライトなしでも結構見える。
神社の手前から足元に注意し、川縁に降りる。
そう、私の目的はあの銀河に飛び込むこと。
道の脇から、川の向こうから、眺めるだけだった宇宙に手を伸ばしたい。
少しの勇気と、用心深さで、願いは叶った。
暗いところがこわくなくて、良かった。
嬉しくて記念撮影もする。
もちろん、タイマーである。
ホタルは20時ころと0時ころに飛来する。
1時間ほど乱舞すると、疲れて葉の上で休む。
オツカレ、ホタル。
いい夢を。
6月12日。
朝から外食するところなんてないから、自分で朝ご飯の支度をする。
雁股庵で三谷ママのご飯じゃないものを食べるなんて、なんか変だ。
コンビニで買っておいても良かったんだけど、ここにいると朝ご飯くらい作ろうって気分になる。
インターネットを見ない分(圏外)、時間があるのかもしれない。
梅雨の始まりだったけど、ザーッと降られることはなかった。
この後、お掃除したり、洗濯したり。
ランチは美味しいと評判のおそば屋さんに行った。
三谷さんから教えてもらっておいたのだ。
ざるそばの、コースにしてみた。
突き出しは盛りつけも凝ってる。
おそばはおそらく二八そばで、ツルッとした喉越し。
九州っぽい少し甘めの割り下で、味わいながらいただくのがいい。
天ぷらも豪華でぺろっと食べてしまった。
そしてそのまま、すがり谷へ。
今日はミラノシカ(田舎暮らし研究サロン)に久しぶりのメンバーが来てるそうだ。
福岡から来たグラフィックデザイナーの村上さん。
京都から来てるコーダーのタカハシタカシ氏。
休憩中のかめちゃんは西塔さんの奥さんで、上毛町の物件を紹介する「上毛しばいぬ不動産」を準備中。
ちなみに福岡から移住してきた。
西塔さんと3人で何か企んでいるらしい。
そこへご近所のおばさまが珍しいものを持っていらっしゃった。
なんでも「ホタル鼓」(だったかな)という工芸品だそうだ。
今ではこれの編み方を知っている人は少なく、このおばさまも記憶を頼りに何となく編んでみた、とのこと。
見事な螺旋である。
手作り魂が刺激されたのか、男たちが何か作り始めた。
シルクスクリーンである。
(失敗は許されない……ドキドキ!)
(満足そうな表情!)
出来上がったのはこちら。
「田舎暮らし研究サロン」こと「みらいのシカケ」の旗である。
(きれいに刷れた!)
(村上さんもOKサイン)
適当な棒っきれを拾ってきて、旗の完成!
夜は雁股庵へ戻り、いただいた大量のタケノコを煮付けることに。
こんなに竹の形したタケノコを、私は初めて見ました。
久しぶりに元「給食のオバサン」スキルを発揮して料理を作る。
大量に出来てしまうのが玉に傷だ。
太刀魚を見つけたので、珍しいからソテーにしてみた。
さっぱりとして美味しい。
というか、上毛町で料理したけど、素材が美味しいんでほとんど塩とコショウでOKだった。
目玉焼きにさえ、ひかえめな塩とこしょうでいい。
タケノコは、こっちでは「天ぷら」と呼ばれるさつま揚げといっしょに煮た。
そして、この夜もホタル銀河へ飛び込みにいってきた。
ここも、どうしても、夜に行ってみたったんだ。
誰かといっしょだったら止められそう。
気を使ってさっさと帰ってしまいそう。
機材を担いで、山の神へ。
こわくないと言えばウソになる。
山道で生身で出会うシカには、お互いにビックリする。
シカ「え? 何? え!? ヒト!?!? マジ!?」
ってうろたえる声が聞こえて、
シカ「キューーーーーーーーーーーーーーン!(威嚇音)」
と叫んで走っていくもんだから
「こっちのセリフだよ!(ここはお前の庭じゃないか)」
と言い返してやった。
ああ、イノシシでなくてよかった。
群舞はもう撮ったから、何か新しい、違う画角で撮りたい。
山の神と分る写真を撮って、ふと脇の木をみる。
休んでる。
ホタルが休んでる。
三脚をそそくさと構え直して、マニュアルの焦点を勘で定める。
私のカメラはミラーレスだから、ファインダーがない。
ホタル光くらい淡いと、モニターにはほとんど何も写らない。
だから、画角もピントも勘で合わせる。
暗くて長時間露光が必須だから、風が吹いて葉っぱが揺れたら終わり。
もちろんホタルが飛んでも、いなくなっても、終わり。
ちゃんと撮れる可能性は低い。
それでもいい。
撮れなくて当たり前。
でも、新しい写真を撮りたければ、挑むしかない。
一瞬の無風、つかの間の軌跡。
ホタルはひと際光を強くはなって、その場で踏ん張ってくれた。
この写真が撮れて、心底ほっとした。
今回、上毛町に来た「意味」と「理由」がひとまず完結した。
そう思えた。
勝手に、肩の荷が降りた。
あとは楽にしよう。
心のままに、夜と、ホタルと、上毛町を、楽しもう。
山を後に仕様とレインコートに手をつっこむと……ない。
iPhoneがない!
慌てて探すとビッショビショになったiPhoneを見つけた。
悲しさよりも、見つかった喜びの方が大きかった。
カメラを担いで山を下りる。
この夜は満月だった。
淡い雲にハロが出ている。
雁股庵の前で仁王立ちして、水田に映る月を眺めた。
カエルが大合唱している。
ふと、私の足元にもぺたん、ぺたんと横断中のカエルが見えた。
慌てて追いかけたけど、カエルの方が早かった。
シカ除けの電線を越えて、畦へと行ってしまった。
(きれいだなぁ)
iPhoneは逝ってしまったけれど、どうせここは圏外だ。
この夜、更にちょっとした軌跡と遭遇する。
ことの顛末はこっちに書いた。
6月13日。
朝ご飯。
(どうしてもチムニーパンのトーストが焦げる。)
この日は雁股庵で引きこもっているつもりだったけれど、
iPhoneが水没してしまって、私の連絡手段がなくなったため、それを知らせるためにインターネットを必要とした。
というのも、auショップに行ったけれど、交換はApple直営店でなくてはダメで、そこは上毛町から車で1時間以上走ったところ(小倉)にしかなく、また代替機も出せないとのことだったからだ。
あゆみちゃんが家にいれば寄ろうと思ったけれど、車がないので不在のよう。
そのまますがり谷へ車を走らせ、ミラノシカへ行ってきた。
ここは笑うしかない。
この日はたくさんの方が居て、第二期ワーキングステイに参加された西尾さんや、イチゴ農家の松本さん、
「手作り名人」と名高い伊藤さんご夫妻にお会い出来た。
伊藤さんには手作りの「かめのい餅」と言うものまでいただいた。
「明日、うちでみんなでご飯を食べるから、コヤナギさんもいかが?」
と、伊藤さんにお誘いただいた。
なんと!
みなさまが帰られた後、中尾さんが来た。
愛犬の「マメ」を連れて。
商店街のアーケード感覚で土間を通過していく中尾さんとマメ氏。
かめちゃんによると、マメ氏は上毛町のしばいぬ界の頂点に立つ最強のしばいぬらしい。
そんなマメ氏を三輪スクーターの足ものとに乗せ、颯爽と去っていく中尾さんが完全に鳥山明の世界に見えた。
この日の写真が朝日新聞に載った。
iPhoneが水没してなければ今日は来ないはずだった。
納得のいくホタル写真は撮れていた。
もう楽しむだけで良いんだ。
上毛町滞在は、あと3日。
〈つづく〉