2017年9月。格安でも、飛行機はアイスランドのケプラヴィーク空港までわたしと荷物を運んでくれた。成田からトロントまで12時間、トロントでトランジット待ち7時間、アイスランドまで5時間半と、計24・5時間かかった。
本当にアイスランドへ来た。
アメリカ大陸とユーラシアの間にあって、北海道よりちょっと大きなくらいの活火山の島国。お隣にグリーンランドがある、あの僻地。ヴァイキングが開拓して、羊が暮らし、空にはオーロラが当たり前のように踊るという、あのアイスランドに、とうとう来てしまった。
目的はオーロラハント。しかも、オーロラ観光大使の時にもお世話になった高坂雄一さんと一緒だ。キャンピングバンで車中泊とはいえ、贅沢すぎる旅がはじまった。
「リングロード」一周を目指す

アイスランドの首都はレイキャビークという。玄関口であるケプラヴィーク空港から車で40分程度。そこから島をグルッと包み込むような国道1号線が走っている。これが通称「リングロード」。全周1339キロメートル。それが長いのか短いのか、さっぱり勘所がつかめない。
レイキャビークでキャンプに必要な食料を買い込み、車は北西へ向かう。市街地から10分も離れれば「荒野」という言葉がぴったりの風景を目の当たりにして、どう言葉にしていいのか黙り込んでしまった。
森林はおろか樹木がまったく見当たらない。景色の全体像をつかむのに、木を見ず森を見よっていうけれど、森を見ようにも木なんかないのだ。ただただ、色づいた膝丈ほどの低木と、ほふく性植物がなだらかな地を覆っている。赤茶けた地面がひたすらに続く。
別の惑星のような、目の当たりにしたことがないタイプの絶景を前に、あまりにすべてが「あけすけ」で、心許ない気持ちになった。
見晴らしがいいぶん、どこにも逃げ場がない。こんなところでトイレに行きたくなったらどうすればいいだろう。絶景を前にして、トイレの心配ばかりしてしまうのは、わたしだけだろうか。
アイスランドのアイコン・キルキュフェトル山
最初の目的地はスナイフェルスネス半島にある。アイスランドの北西から突き出していて、パワースポットと呼ばれていた。「スナイ」は雪、「フェルス」は山という意味で、「ネス」は半島を略した言葉だそうだ。

雪山半島の名にふさわしく、ここはスナイフェルスヨークル氷河がある。19世紀初頭に発表された小説「地底旅行」で入り口として登場し、ディズニーランドにあるアトラクションのモデルとなった映画「センター・オブ・ジ・アース」の舞台としても有名らしい。もっとも、わたしが行ったときはどんよりとした雲があたりにフタをしていて、なにも見えなかったけれど。
高坂さんの目的地は氷河よりも北にあった。アイスランドのオーロラ写真のロケ地としてよく被写体になっているキルキュフェトル山だ。
ガイドブックでも「アイスランドの山といえばここ」「もっともフォトジェニックな山」などと紹介されていた。いわば、アイスランドのアイコンというわけだ。名前の由来は「教会の山」だが、教会が建っているわけではなさそうだ。
標高は463メートルだが、こっちも雲に刺さっていた。
観光客が多すぎる…

近くに2つ並んだ小さな滝と合わせて人気の観光スポットになっている。滝からの水量はそれなりにあるが、その先の川幅広く、すぐそこの海へ流れ出しているようだ。
初めて見たアイスランドの景勝地だが、観光客の多さにひるんでしまった。アウトドアウェアに身を包んだ人々は原色でまぶしい。
ひとまず撮影を、とカメラを向けたが観光客が写ると一気に荘厳さに欠けるため写し込みたくない。しかしひとが途切れる隙はなさそうだ。せめて派手な服を着ている人が遠くを歩いている間に、と見計らってシャッターを切った。溶岩石でできた真っ黒い大地に、曇天の低い天井がキルキュフェトル山にぶっささり、滝は大地と見極めがつかないほど真っ黒だ。わたしが撮った「アイスランドのアイコン」の写真は、なんか、ちょっと……いいのか? これで。

車で食事を済ませ、夜を待つ。雲が動いて、オーロラが出ることを祈る。
雲の天井が分厚すぎる…
オーロラは出た、雲の天井は高くなって、キルキュフェトル山の先っちょだって見える。でも、オーロラが揺らめくのはそのもっと屋根の上だった。




羊が意外とでかくてこわい…
翌朝、観光客がやってくる前のキルキュフェトル山を見に行った。アイスランドのアイコンとしておなじみの羊たちが、朝食を食んでいた。



近くで見る羊は、結構でかくて怖かった。
なんか不満ばっかりだな? さぁ、アイスランド旅のはじまりだぞっ。
もっと詳しく書いてます
文学フリマなどで発表してるリトルプレス「アイスランドでオーロラハント」から、一部抜粋して掲載しています。本書はネット通販でも(少し割高ですが)販売中。