生きとし生けるものはやがて死ぬ。
そんな疑いようのない当たり前の「天命」をひっくり返そうとした現代芸術家がいた。荒川修作と詩人のマドリン・ギンスだ。
身体に及ぼす「心地よさ」を疑い、生命の可能性を磨き続け、やがて奇跡を見つけたヘレンケラーのように、天命さえひっくり返そうと、2005年に「三鷹天命反転住宅 イン メモリー オブ ヘレン・ケラー」を完成させた。
14の色彩で塗り分けられた壁や床は、ほぼ平らなところはなく、部屋のコンセントやスイッチの位置もバラバラ。探り、疑い、確かめながら暮らすことで身体の可能性を拡張させようというのだ。
だから、ここは暮らすことが大切で、分譲住宅として公開された。やがて、若い人にこそ体験して欲しいという気持ちから、賃貸や3日からのショートステイが開かれたものの、その敷居はやっぱり高く、憧れ望む存在だった。
平日6時間貸切「テレワーププラン」開始
それが、2021年3月16日より「テレワークプラン」をスタート。平日の11時〜17時まで、最大4名の限定2組が利用できるようになった。
ワークショップとも見学会とも違う滞在体験ができると聞いて、カメラを担いで参加してきた。
どこの駅からも遠く、決してアクセスが良いとはいえない立地で、さっそく乗るバスを間違えたけれど、早く行きたい一心でタクシーをつかまえ11時過ぎに到着。
実際に目にした「三鷹天命反転住宅」は、思っていたより街に馴染んで見えた。時間通りに到着した友人から、今日の部屋番号を聞いていたので、敷居をまたぎ、エレベーターに乗り込む。共用部分は多少の経年はあるものの、なんというか独特の落ち着きがある。
「ただいまー!」といいながら部屋の扉を開けた。
中を一目見たら、きっと色の洪水に笑ってしまうと思ったけれど、意外とすんなり受け入れられた。
玄関マットで靴を脱ぎ、憧れのでこぼこ床を踏む。大きな出っ張りは大人の、小さな出っ張りは子どもの土踏まずの大きさになっていると、どこかで読んだ。ビーズのように埋め込まれた小石がキラキラと輝く。
わたしたちの部屋は「気配コーディネーティングの部屋」。間取りは3LDKで、中央のリビング&キッチンを中心に、畳部屋、ベッドルーム、バスルーム、そして球体の「勉強部屋」がある。
色彩に翻弄はされないまでも、ふつふつとあの憧れの「三鷹天命反転住宅」へやって来たのだと思うとやっぱり落ち着かない。
シャワールームや料理器具は、テレワーププランでは使用できないが、500mlの水やコーヒー・紅茶、使い捨てのスリッパなどアメニティもある。お茶でも入れて一息入れようと、湯沸かし器のコンセントを探したが見当たらない。ふと、上を見ると昇降式の延長コードがぶら下がっていた。なるほど、確かにいつもの生活ではコンセントを探すのに上を見たりはしない。さっそく天命が0.5度くらいは傾いた気がする。
いちおう、テレワーププランだし、パソコンなんて出してみて、メールのひとつやふたつ返してみるけれど……惜しい。この空間にいながら目を離すが惜しい気持ちでいっぱいだ。
憧れの「死なないための家」でリモートワークプラン利用中。
— UKOARA🐨Natural born chiller (@Yu_koara) June 1, 2021
楽しくて仕事にならないけど。 pic.twitter.com/a7NgOPsGpK
ランチは近所のマクドナルドを持ち帰り食べた。
ハンモックに揺られながら、買っておいた「22世紀の荒川修作+マドリン・ギンズ ──天命反転する経験と身体」を読んで、疲れたらお気に入りの場所に寝っ転がって、写真撮って遊んで、本読んで、寝っ転がって。
実は昨日の夜から楽しみでとてもワクワクしてたのです。
— UKOARA🐨Natural born chiller (@Yu_koara) June 1, 2021
大人が子どもみたいになれる家だよ。 pic.twitter.com/OHGNsDgpRX
ここで仕事がはかどる人もいるだろう。だけどわたしは結局「家でできることは家でやればいいよ!」といって、パソコンは早々に片付けてしまった。
あっという間に6時間は経って、太陽が傾きはじめた。
夜になったら、この部屋はどうなるんだろう。真っ暗な中で、この部屋を移動したらどんな感じなんだろう。目が覚めて、最初に飛び込むのは何色なんだろう。暮らしを通して感じられる部屋の雰囲気を想像した。やはりここは住宅なのだ。
わたしが仕事に集中できるようになるには、あと2.3回は利用しないと難しいと思う。ここは一目で6色以上の色が目に入るように設計されているそうだ。そして、荒川修作がいうには、人間はジャングルのような多彩な空間に身を置くと、最初は情報が多く混乱するが、やがて無色透明に感じ精神が研ぎ澄まされるらしい。それは一種のマインドフルネス。「体験にとらわれず意識を集中する」ことで得られるらしいけど、わたしにはまだまだこの体験は特別すぎる。
とはいえ、内容は大満足だ。自分のペースで、自分たちだけで、この空間を独占できるなんて、奇跡のように感じる。「テレワークプラン」自体がわたしのメモリー オブ ヘレンケラーといっていい。
テレワークプランはオフィシャルサイトの案内より可能。
天命をひっくり返そうとした二人の気配を感じて欲しい。
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一緒に滞在体験をしたブロガーUKOARA(ゆーこあら)の滞在レポートはこちら。コヤナギ自身の写真はこちらの方が載ってます!
楽しくて仕事にならない「三鷹天命反転地住宅」テレワークレポ
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三鷹天命反転住宅 イン メモリー オブ ヘレン・ケラー
〒181-0015 東京都三鷹市大沢2-2-8
http://www.rdloftsmitaka.com/
テレワーク、会議室利⽤:11,000円/日