2008
08.20
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山部引退?! キツすぎた二度目の富士登山に格言が降る

ESSAY


最初に決まっていたのは富士登山の日程。本日8月4日。
後から急に長岡花火が見たくなって、2.3日と強行スケジュールをつっこんだのは私。

3日の最終(の1個前の臨時)新幹線で東京に戻り、仮眠のようなカタチで休憩を挟み、翌日は朝のラッシュに揉まれ、新宿発のこの高速バスに乗り込んだ。
だからきっと、確かに疲れてはいるけれど、この異様な鼓動の高鳴りは、じりじりと近づく五合目という登山口に対する高揚のはず。
オンシーズンと言われるお盆近辺を外したとは言え、長い渋滞に巻き込まれながらスバルラインを登る高速バスで必死に自分を言い聞かせた。
さっそく高山病を患っている場合じゃない、と自分を奮い立たせ河口湖口で待ち合わせたニイガタの友人タマヨに携帯で電話する。
途切れ途切れの電波。auは富士山に弱い。

今年も富士登山に挑むと決心したのは去年。
はじめての富士登山を遂げた瞬間だった。
分厚い「ガス」に阻まれ、あんなに楽しみにしていたご来光が拝めなかったのだ。
ピークを外して8月22日に登った。
山頂にある郵便局から出そうと持参したハガキも、すでに閉局後で出せずじまい。
郵便局は8月20日までらしい。
「初めて」という気負いからか苦痛の記憶はそれほどなかった。
ただただ残念で、悔しかったのだ。

タマヨと合流後、去年と同じお寺の隣の食堂で山菜うどんを食べる。
酷い吐き気と、目眩と、頭痛。
必死にうどんを1本ずつすすってたっぷり1時間かけて平らげた。
去年高山病に効いたバファリンを2錠持って来た。
そのうちの1錠を口に放り込む。

今年は原油高のあおりか登山が流行っているらしい。
ピークを外したとは言え、去年の倍はいる登山客に驚く。
若者が多い。
天気がよいと砂埃が酷い、と去年学習した私はマスクを持参した。
それをタマヨに差し出すと「私も持って来た」と言う。

いよいよ、私達は二度目の富士山頂を目指し、踏み出した。

今年のタマヨ。

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景色がきれいなのは六号目まで。
標高の問題で植物が極端に少なくなる、というのもあるが体力的に早くも限界を迎えるから、と言う方が語弊がないように思う。

一瞬効いていたバファリンの「優しさ」も早くも切れ始め、ふたたび頭痛と闘うはめに。
剣山予備登山でイケルと判断し用意した一眼レフカメラが重くて仕方ない。
体力的にもキツくて写真なんて撮ってる余裕がないのでバックパックに移して、少しでも足を進められるよう努力する。
でもキツい、キツい。
七合目に到着して山小屋のベンチで休む。
登山客が多いので山小屋の前にある狭い路地は通勤ラッシュのような人ごみだ。
デスマスクみたいに血の気のひいた顔をして、サイレントリバースをする人が珍しくない。
そして、私も負けないくらい青い顔をしていた。
最後のバファリンを煽り、もう少し、頑張る。

どんなに「必死に」足を運んでもタマヨたちとの差が開く。
私も必死だが、タマヨだって必死だ。遅い、早いに関わらず「自分のペース」で登らなくては、保たない。
七号目と八合目の中程にさしかかり、タマヨに提案した。
今年はホントにキツい。
だから先に行ってほしい。登れば必ず予約した山小屋に行くのだから、そこで落ち合おうと。
もしも行かなかったらギブアップしたと思ってほしいと。
ホントは既にギブアップしたかった。
でもせっかく来たのだから、1年越しの思いで登るのだから、もう少し、頑張ろうと思った。
だんだん小さくなるタマヨ達の背中を見送りながら腰を下ろして休んだ。
もう、ホントに限界だと思った。
後少し頑張ったら、諦めよう。

いつまでも早い鼓動を感じながら休んでいると、雨が降って来た。
雨具を着込んで寒さをしのぐ。
やがて眼下に虹が広がった。
ポケットに入れておいた小型動画も撮れるデジタルカメラで虹をおさえた。
くるりとカメラを自分に向けて「今回はダメっぽい」というやつれた自分の表情も撮った。

でも、あと、ちょっと。
ちょっとだけ頑張ってみよう。

重い足を引きずるように、ホントに少し、ホントにちょっとずつ前に進んだ。
去年は16時過ぎに辿り着いた八合目最初の山小屋「白雲荘」についたのは、あたりの日も暮れた19時頃。
この日は関東全域で大雨だった。
幸い富士山は小雨程度で済んでいたが、足下では稲妻が走り、分厚い雲に閉ざされて街の明かりは見えなかった。
今年の山小屋は「ともえ館」というところらしい。
八合目の上の方にあるとは聞いていたが、なんとか八合目まで来れたんだ。
もう少し、頑張るしかない。

昼に登山を開始する人はご来光目的な場合が多い。
日が暮れる前に八合目近辺の山小屋に到着し、仮眠をとって1時、2時に山頂を目指し出発するのだ。
夜の登山は寒く、街灯なんてあるわけないからとんでもなく暗い。
「八合目」はとりわけ長い。
長く感じるのかもしれない。
それぞれの「山小屋」に収容された同士である登山人は極端に減る。

気がつけば私はひとりで暗闇を歩いていた。
自分のヘッドライトで足下だけを照らす。
ゆっくり足を進めながら砂利を踏みしめ「ゴリゴリ」と音を立てる。
また一歩、後一歩。
すぐに限界が訪れその足を止めると、耳が痛くなるくらいの静寂が襲ってくる。
あたりは距離感が計れないくらいの深い深い闇。
猛烈な孤独感が恐怖となって襲って来て、声を上げて泣き出してしまいたかった。
でもとにかく疲れていた。そんな余裕もなかった。

疲労、頭痛、そして吐き気もピークに達し、一度戻してしまおうとしたが胃酸も出てこなかった。

私は、どちらかというと「頑張る」タイプの人間だと思っていた。
でもそれは自分がやりたいことと決意した場合のみ。
いばらの道でもやりたいからやってきた。
裏を返せばやりたいこと以外はやってこなかったということだ。
興味がないことや、納得がいかないことは頑として実行に移さない。

今の私はホントにもう「やめたい」のだ。
もうご来光も郵便局もどうでも良い。
具合が悪い。
疲れた。
怖い。
苦しい。
寂しい。
限界だ。

けれど、登るにせよ、辞めるにせよ、足は動かさねばならない。
登山口である五合目までは「三合目」分、
休憩できるともえ館までは最長でも「一合目」分。
仕方がない、しょうがないという思いで、気持ちとは正反対のベクトルに対して頑張るしかなかった。
朦朧とする意識の中で「これは初めての体験だ」と気がついた。
生まれて初めて、全くやりたくないことに努力した。

「ともえ館」はホンットに八合目の上の方にあって、いくつもの山小屋を過ぎては「まだかーい!」と心の中でつっこみ、少しでも前に進めていることに驚いた。
ようやくともえ館に付いたのは夜の21時を過ぎた頃。
先に休んでいたタマヨ達はベッドのカーテンを勢いよく開けてこちらをみて
「ユウさん!よく頑張ったねー!」と言ってくれた。

夕飯のカレーを半分ほど食べて、すぐに眠ってしまった。

山小屋で休むと具合が悪くなってしまう人もいるが、幸い私は回復するタイプだったようで、1時に起床すると頭痛も吐き気もかなり軽減されていた。
すぐに用意を済ませ、朝食のお弁当を半分ほど食べて「元気」を注入する。
相変わらず止まない雨の真っ暗な山道には、去年見た風景と同じくヘッドライトの長い列が出来ていた。
そして、去年と同じように、こんなにたくさんの人間が集まっているのにみんな無口だった。

静かな渋滞に巻き込まれるカタチで山頂を目指す。
ダウンを着て、ニット帽をかぶって、雨具のフードをかぶりカオをすっぽり覆ってしまっても、寒い。
雨でびっしょりになった手袋は酷く冷たかったが、外すよりは暖かかった。

九合目から山頂までは直線にすれば300メートル。
けれど、これの長いこと、長いこと。
三歩歩けば肩で息をしなければ血が巡らないくらい。
考え事なんて何にも出来ない。
もしもこの道が一生続くとして、山頂なんてないんだとしても、ただ進むことしかできない。
足下だけを見つめて、一歩。ただ、一歩。たった一歩。

そうやって、長い時間掛けて「いつの間にか」山頂に着いた。
山頂に着いた瞬間は感動なんてない。
混み合うご来光スポットに立って、何も考えないでご来光を待つ。
相変わらず足下の分厚い雲には稲光が走っている。
でも、私達は今、その上にいる。
小雨の中、祈るでもなくただ立って、ただ待った。

ご来光は見えるのか。

念願のご来光をカメラに収め、ふと思った。
私は今、富士山頂にいるのだ、と。
諦めようと、辞めようと決意したはずのあの山頂に、立っているのだと。
そして極ありきたりなことに気がついて笑った。
「進んでいれば、いずれ着く」
「やってりゃ、できる」

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山小屋で甘過ぎるお汁粉で暖をとり、しょっぱい豚汁を途中で残して、お鉢を見に行ったらそのでかいこと、広いこと。
お鉢周りの長さを思い、これは辞めておいた。
だって、そこまで興味ないし!(笑

 

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しかし「お鉢周り」中腹部に位置する郵便局へは頑張ってみることにする。
また、何も考えないでただ歩いた。
でも、目の前には形容しがたい風景が広がっていて、気分は良かった。

ハガキは3通だけ出した。
母と、あんまり会えない滋賀と、北海道のトモダチに。
疲れすぎててそれ以上書けない。
最後に書いたハガキなんて、言葉が書けなくて落書きみたいな絵だけ。

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去年達成できなかった「ご来光」と「郵便局」を堪能してすっかり清々しい気持ちになった。
また「やってりゃ、できる」なんて思い出して、笑った。

太陽って暖かい!って身体中で実感しながら意気揚々と下山するんだけど、これも長っっっっ!
永遠と続く直線の下り坂の折り返し。
これがかなりヒザにくる。

変わらない風景と、長い下り坂の繰り返しに憤り、うんざりして、やがて狼狽し、衰弱し、また何も考えなくなる。
これが一生続く道だとしてもやるしかないとばかりに。

六合目まで辿り着くと、前進を感じる。
そしてまた気がつけば五合目の河口湖口に戻って来れた。

この24時間。
なんど気持ちがあの世を巡ったことか。
でもこうして私は河口湖口に戻って来れた。
やっぱり「やってりゃ、できる」のだ。

よく「一生のうちに一度くらいは登っておいた方が良い」なんて言う富士山だけど、
ここを読んでいる富士登山に暗いみなさま、
別に無理して登ることないよ!

ただ、登ってみたいけど気の引けるみなさま、
「やってりゃ、できる」で、ございますよ。

帰り道、あんまりにも気が抜けていたのか2年も育てた金剛棒を河口湖口に忘れて来てしまった。
ま、別に良いか。
もう二度と登んないし!

いやー、大変だったけど、こうやって思い起こすと良い思い出だった気がしなくもないから恐ろしいことよ。
でも未来の私、覚えとけ。
もう富士登山は、やめておけ、と。

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