サントリーのペットボトルのお茶「伊右衛門」が2004年の発売以来リニューアルと聞いて、2017年3月5日、京都へやって来たコヤナギユウ。前編でオープニングセレモニーや、伊右衛門のフラッグショップ「伊右衛門サロン」にいってきたが、肝心の日本茶のことが分からない。
他社の商品に初代創業者の名前を貸すという福寿園の気持ちも確かめたく、あるところにやって来たのだ。
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福寿園CHA遊学センターで「日本茶」に触れる
最後に訪れたのは、京都市街地から車で1時間ほど。
「お茶の京都博」の舞台でもある京都南部の山城地方にある、「福寿園CHA遊学パーク」。
ここは福寿園のお茶に関する研究施設で、予約すればさまざまな体験が出来る。
施設は東西南北のエリアに分かれており、想像以上に広い。
研究センター内の茶室でお抹茶をいただく
まず最初に通されたのは、こちら。
広い茶室だ。
福寿園CHA研究センターでは、外国人をはじめ企業研修などの団体客も受け入れているそうで、こんな風に広い茶室もある。
まだ風の冷たい3月の上旬、茶室の中央に置かれた茶釜が暖かい。
女主人が現れて、お菓子をすすめながらお部屋のしつらえについて説明してくれた。
何度か機会があってお抹茶会に参加させていただいているけれど、こういうやりとりもひとつの所作なのだよね。
部屋のさりげないしつらえや茶器に関する「さりげないおもてなし」とそれを受け取る「抜け目ない知識」のやりとりがお茶の粋なところだなって思うんだ。コヤナギは聞きっぱなしなのでざるのような知識しかないけれどね。
(奈良の暮らしが描かれた「奈良茶碗」という器でお茶が振る舞われた)
施設の中にはこんな本格的な茶庵も2棟建っていた。
伊右衛門はなにが新しくなったの?
発売から14年目を迎えた伊右衛門が今年、新しくなった。
パッケージも味も、一新。
なにも説明を受けず、試飲してみた。
緑のシールが貼ってある方が色が黄色く、お茶に詳しくないわたしにも分かるくらい「抹茶」が入っていることが分かる。
対して青いシールが入ってる方は、色も明るく、透明感が高い。味も見た目の通り、スッと透き通るさわやかさがあり、口の中に甘みが広がった。
全然違う味だ。
緑のシールが以前の、青いシールが新しくなった伊右衛門だそうだ。
全然違う!
「伊右衛門」というブランド名を保ったままでいいの? と思うほど、この2つは全然違う味だった。
そもそも日本茶って?
美味しいお茶をいただいたところで、いよいよ座学だ。
福寿園の「お茶のスペシャリスト」である「茶匠(ちゃしょう)」の谷口さんがお話ししてくれた。
茶匠には大きく3つの仕事があるそうだ。
ひとつは目利き、もう一つは合組、そして最後は品質管理。
目利きというのはただ仕入れてきたものの善し悪しを選別するだけでなく、茶農家に「茶匠の谷口はこういうお茶を求めている」ということまで理解してもらって、同じ目標に向かってお茶作りしてもらうことまでが仕事だ、とおっしゃっていたのが印象的だった。
お茶の善し悪しは4つの工程によって決まる。
1:質⇒摘み取ったときの茶葉の状態
2:加工の技⇒いいお茶ほど火入れせず、大きくカットする
3:合組の技⇒合組とは茶葉のブレンドのこと
4:淹れ方の技⇒茶・湯の量や温度、時間の調節
茶葉は収穫期によって味が違う。
最初に出てきた春の新芽が「一番茶」
2番目に出てくる夏の茶葉は渋みが増した「二番・三番茶」
秋冬にとれるそれ以降の「番茶」はごくごく飲むのにふさわしいそうだ。
「一番茶」と「二番茶」を比べさせてもらった。
色も香りも全然違う。
一番茶の青々しさや、甘い香りはなんなのだろう。
そもそもお茶の「おいしさ」とはなんなのか。
福寿園CHA研究センターでは、それをアミノ酸の中の「テアニン」の量が多いと「うま味」が多い、と結論づけたそうだ。
事実、高級茶葉といわれている玉露にはテアニンが多く、番茶には少ないそうだ。
それを実感するために「目利き」体験をさせてもらった!
これが、最高に楽しかった!
日本茶の個性がよく分かる目利き体験!
ずらっと並んだ茶葉と器具。
茶匠が実際に行っている「目利き」で使っている道具だそうだ。
今回は8種類の日本茶の違いを体験してみる。
緑から茶色に茶葉が変化している。
手前から奥に、碾茶(てんちゃ)、玉露、かぶせ茶、煎茶、深蒸し茶、釜炒り製玉緑茶、番茶、ほうじ茶の順に並んでいた。これはテアニン量順でもあるそうだ。
(茎ばっかりのほうじ茶も、ごくごく飲むのには美味しい)
そもそも、日本茶もウーロン茶も紅茶も、同じ茶葉だというのはご存じだろうか。
収穫後の加工方法が異なり、ウーロン茶や紅茶は乾燥して酸化発酵させているので色が茶色いのだそうだ。
日本茶は、その美しい緑色を保つために蒸して火を入れ色を保っている。
また日本茶では茶葉の育て方にも大きく3種類ある。
日光に当たると葉っぱが光合成して渋みが増してしまうので、味わいによって調節するのだそうだ。
被覆栽培……新芽が出たらすぐに囲いを作ってながく太陽光を遮る(碾茶(てんちゃ)、玉露)
かぶせ……ある程度育ったらおおいをかぶせてうま味を含ませる(かぶせ茶)
そのまま……太陽をさんさんと浴びて育てる(煎茶、深蒸し茶、釜炒り製玉緑茶、番茶、ほうじ茶)
まず最初に、専用のトレーに入ったお茶を目で見て色と形を、そして香りを確認する。
碾茶(てんちゃ)と玉露は同じ茶葉で、加工法が違うらしい。
うま味が出るように揉まれた玉露は、茶葉が寄られて細くなっているけれど、碾茶は粉にして全部飲んでしまうので寄る必要がなく葉が開いていた。
(違いが分かるかな?)
順番に茶葉たちを嗅いでいく。
テアニンが多いとされる茶葉ほど色が濃く、香りが青々しく感じた。
次にお湯をそそいてお茶の茶葉の香りを嗅いでいこう。
香りが立つように熱湯を入れる。
本来は苦みを抑えるように玉露は低い温度で淹れるとのことだけれど、目利きのときはすべてを引き出すため、90度近い熱湯を入れるそうだ。
そして、こし器で茶葉をすくい上げて、湯気からのぼる香りを楽しむ。
これが、本当にいい香り!
茶こしを上げて、細かい茶葉もすくい上げ、今度はお茶の色と味を見る。
小さいさじで浮くって口に含む。
口に入れているとお茶のような繊細な味わいは2秒ほどで感じなくなる。
だけど、顔を少し下に向け、口をすぼめて「シュロロロロロ」と空気を含めながらお茶を口の中でくゆらせると、豊かなお茶の香りが戻ってくる。
テアニン量の違いがあって、甘みは確かに碾茶や玉露が一番だけれど、お茶それぞれのおいしさがある。
ペットボトルとはいえ、お茶を飲むことが身近になったからこそ、美味しいお茶が「最高級」とは限らないのかも、と思った。お茶が身近になったからこそ、わたしたちの生活スタイルに合った「美味しいお茶」は時代と一緒に変化するのだ。
最後に、面白いものをいただいた。
最上級の日本茶「碾茶」を氷で一晩出したものだ。
氷で淹れることで熱を通さず、お茶の苦みが一切出てこない、というもの。
(氷の入った茶器)
見た目は普通のお茶だけど、どんな味がすると思う?
わたしは思わず「お出汁の味がする」と口走った。
お茶の苦みがまったくなく、苦みの影から顔を出していた甘みは、「うま味」の味だった。
「ここに少し塩を入れただけで、上等なおすましだね」なんて、誰かが言っていた。
「いま」感じる「おいしさ」がある
セミナー室に戻って、さっきテイスティングした新旧の伊右衛門を改めて飲んでみた。
「複雑な味がする」
テイスティングでそれぞれの茶葉の味を確認したことで、新しい伊右衛門が複雑な配合によって出来てることがはっきりと分かった。それは、しつこくなく、飽きなく、“美味しい”。
茶匠の谷口さんはおっしゃっていた。
「時代によって生活スタイルは変わります。急須で飲む60mlのお茶から、ペットボトルで飲む500mlのお茶に変化しました。それなのに急須と同じおいしさを求めていては飽きてしまって、とても500ml飲めないでしょう。お茶は、のどを潤すだけのものではなく、コミュニケーションや生活スタイルを作っていくものです。だから、生活様式に合わせてお茶のおいしさが変化していくのは当然のことなのです」
10年立てば常識はがらりと変わる。
洋服の流行なんてもっと早い。
デートの定番レストランだって、イタリアンからフレンチ、最近なら大衆居酒屋にシフトしていっている。
だから、わたしたちの生活や「おいしさ」だって変わって当然なのだ。
前の伊右衛門も確かに美味しい。だけど、それはまだ「お茶のおいしさ」を知らない人のために、分かりやすい演出をしているような大げさなものに今は感じる。
日本茶のおいしさが初めて分かった。
いや、改めて分かったという方が正しい。
知らず知らずのうちに貯まっていつの間にか飽きてしまっていた古い「日本茶」感に、伊右衛門は新しい価値観を運んできてくれた。
分かったからには、今度は選んで日本茶を飲みたいと思う。
「ひとつ上の、伊右衛門」を。
・伊右衛門
・福寿園
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