みそも醤油も昔はしょっぱいばっかりで美味しくなかったらしい、と聞いたことがある。
基本的に塩で固めた保存食で、それは漬け物にもいえる。深い雪に閉ざされている間、なんとか食いつなぐ手段であって、渋々食べるものが転じてこのようになった……といった認識は間違いだったようだ。
名だたる文豪が愛した甘口の粕漬けがあると聞いて、新潟県は六日町にある今成漬物店へやってきた。
銘酒・八海山の純米吟醸の粕漬けを半年寝かせ、3度漬け替える「山家漬」
もとは薬屋さんで、現在も隣で薬局を経営している今成家。
築200年という古民家を生かした店内には年季の入った薬棚が並ぶ。
ここで販売されているのが「山家漬(やまがづけ)」だ。
名付け親は先々代とかねてから交流のあった書家で歌人の會津八一。この甘口の粕漬けの見事な美味しさに感動し、氏が愛読していた平安末期の歌人・西行の歌集「山家集(さんかしゅう)」にちなんで名付けられた、「山家漬」の題字も書いた。
もともとごく親しい人に美味しいものを食べて欲しいと「地元野菜と山菜を生かし、心を尽くしたお漬け物」を送っていたのがきっかけで、販売を始めたそうだ。
銘酒・八海山の純米吟醸の粕漬けだけを3年寝かせてから使用するという。仕込みは毎年9月頃から始まって、「生漬(きづけ)」という塩漬けをし、酒粕で塩を抜く「中漬(なかづけ)」を経て、最後に素材に酒粕の味をしみこませる「本漬(ほんづけ)」を行い、1年かけて完成する。
また、素材の野菜も地元農家が品質の良い素材を選んで届けてくれるというから、その美味しさは信頼を勝ち得ているといえるだろう。
今成漬物店では化学調味料や保存料は一切使用せず、80年余り同じ製法を守り続けている。
蔵に、木樽に、“宝”が潜む
作り手が減ってしまった木樽を丁寧に修理して使い続けている。ここには山家漬の要である乳酸菌などの微生物が暮らしている。文字通り手塩を書けて育ててきた漬け物の取扱も慎重だ。塩で漬け、酒粕を塗り、それを丁寧にぬぐい取ってまた酒粕をつける。
「発酵が進んで柔らかくなった野菜はとても繊細です。赤子を抱くように扱え、とよく教えられました」といって大事そうに錦糸瓜の漬け物を見せてくれた。
文化財のあふれる母屋で試食
母屋で漬け物の試食をいただけるということで、雪囲いから雪解け水がしたたる伝統的な軒先をくぐり、玄関に入った。薄暗い玄関口の正面には立派なおひな様が飾ってあり、客間へは玄関横の階段を上がるという。ちょうどロフトのような構造で、玄関の上の廊下を歩く格好だ。古い建物は構造がおもしろい。
どこの高級旅館かと見間違うばかりの立派な客間に言葉がない。
重要文化財として展示貸し出ししているという毘沙門天像が、ちょうど里帰りしてるということで出迎えてくれた。ど、どうも。おじゃまします。
赤い南天の前から時計回りで、キュウリ、ナス、錦糸瓜、ワラビだ。
特にナスと錦糸瓜が印象に残った。甘いうま味をこれでもかと蓄えたナスは官能的だし、錦糸瓜はコリッとした歯ごたえでかみ砕くとほぐれていく食感が楽しい。いや、食べ応えのある豊かなワラビも珍しいし、王道のキュウリは漬け物の違いを感じるにはいちばんいい。つまりどれも美味しくて悩んでしまうのだが、「山家漬」のセットならこの5種類が詰め合わせとして入っているので迷うことはない。
この美味しさにひざを打ち、名付け親にまでなったのは會津八一だが、他にも坂口安吾や正岡子規などこの山家漬に見せられた文豪・歌人の名前がポンポン出てくる。
なんだか山家漬を美味しいと感じるなら文才があるのでは、とさえ思えてくるほどだ。
今成漬物店は伝統を守っているだけではないらしい。地元野菜を漬けた酒粕には、そのままうま味が残っているので、これを使って新しい商品を開発してるそうだ。そのひとつが、クリームチーズ漬け。野菜を漬けた粕床に3ヶ月間つけ込んだという。
「みなさんが山家漬を持って帰られましたら、ぜひ家でやってみて下さい。野菜についた酒粕を集めて、市販のクリームチーズに漬ければいいんです」
雑菌が入らないよう密閉して冷蔵庫で3ヶ月。
さっそくやってみよう。
現在、今成漬物店では山家漬の数に限りがあるため、ネット通販などは行っていないが電話注文は受け付けているらしい。
クリームチーズの漬け物は、催事会場などで期間限定で発売。もしも魚沼に立ち寄ることがあるのなら、六日町足を伸ばす価値はありそうだ。
今成漬物店
山家漬竹皮包み粕漬5種詰め合わせ
(錦糸瓜・越瓜・きゅうり・なす・わらび、計350g)
1,080円
限定品 特別吟匠 山家漬竹白木箱小二段重
(特別吟醸粕使用、美しい白木箱に伝統の真田紐をあしらって。800g)
5,400円
TEL: 025-772-2015
FAX: 025-772-2761
Special Thanks
この取材は一般社団法人プレスマンユニオン主催の雪国観光圏プレスツアーで訪れ、交通・宿泊・飲食費をご負担いただきました。記事の監修・編集は受けておらず、金銭は発生しておりません。感想はコヤナギ自身の主観によるものです。
また執筆依頼もないため、自主的に記事化したものであり、PR記事ではありません。
取材にご協力いただいた今成漬物店様、ありがとうございました。
新潟雪国観光圏プレスツアー | プレスマンユニオン
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書籍にするとおよそ3ページ分です!
コヤナギの記事は写真もいっぱいあるから、本当に本だったら倍以上のページを読んでると思う。
雑誌みたいに800文字くらいでまとめようと思ってるんだけど、文字数制限のないブログに甘えています。
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