TRIP

DAY2:ビールの基本まとめ!
プルゼニュからプラハへ行こう!

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SUCCESS!
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プルゼーニュ(Plzeň)からはじまった冬チェコ取材2日目。

今日からいよいよピルスナー・ビール三昧の始まり。だってプルゼーニュこそが、ピルスナー・ビールの発祥地なんだよ。

覚えておくと、もっとおいしいビールのこと!

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お酒が飲めない人だって、日本酒ときいたら「甘口」「辛口」「大吟醸」などなど、いろいろな種類があることを知っているよね。実はビールも同じ。

ひとくちに「ビール」といってもいろいろな種類があるのだ。覚えておくと楽しくなるビールをあれこれを簡単に書くよ!

ビールの原料は「麦とホップ」!

この黄色いやつが、ビールの苦みと香りを運ぶ

その歴史はかなり古く、紀元前4000年前のメソポタミア文明のシュメール人がつくったとされている。消化の悪い大麦を乾燥させ砕きパンを作る工程で偶然出来たもので、飲むパンと呼ばれていた。当初は風味を加えるためナツメグなどのスパイスが添加されていたが、腐りやすかったためルピナスやホップが加えられはじめたそうだ。

そう、ビールの原料は糖質(大麦麦芽)とホップに酵母。

アルコールの種となる糖質は、だいたいのビールの場合大麦麦芽を使う。乾燥焙煎し、デンプンを糖に変えて酵素をつくる。焙煎具合によってビールの色味が変わってくる。(強く焙煎すると黒ビールになる)

保存目的で使用され始めたホップだけれど、現在の主な目的な風味付け。ホップはさわやかな植物性のみずみずしい香りが特徴で、独特の苦みがある。この苦みが、麦芽の甘みと調和を生んでいるとされ、またビールの泡保ちを高めているんだ。

酵母はアルコール発酵を促す。

そして特筆するまでもなく水も重要な原料だよね。

大分類は「エールビール」と「ラガービール」

最初に発明されたのはエールビール。違いは酵母と発酵温度!

エールビール(上面発酵)

酵母が浮き上がる「上面発酵」で常温(20度前後)の短期発酵。

誕生当初は苦みのあるホップは入っておらず、ハーブやスパイスを入れていたとか。泡が少なく、甘みと香ばしさを楽しむのが特徴。味わって楽しむスタイルのビール

ラガービール(下面発酵)

春になると完成する。「ラガー」とは「貯蔵」という意味だそうだ。冷蔵庫の発明で世界的に大ブーム。現在の主流のビール。なめらかな泡と、爽快なのどごしと苦みを楽しむのが特徴。スッキリとした口当たりを楽しむビール。

これさえ覚えておけば楽しいビール3選

ビールの種類は枝分かれして本当にたくさん!

コヤナギ的「これさえ覚えておけば楽しいビール3選」を独自にPick Upするよ。

ピルスナー・ビール

チェコのプルゼーニュで発明されたラガービール。世界で飲まれているビールのほとんどはこれで、白いきめ細やかな泡と黄金の液体が魅力。すっきりした苦みとさわやかさが特徴で、永遠に飲めそう。

IPA

正式名インディア・ペール・エール、というエールビール。18世紀にヨーロッパからインドへ船旅で運ぶ際、長い航海で腐らないようホップを増やしアルコール度数を高めたもの。苦みが強くフルーティでとても個性的。現在は小さなブルワリーでつくられるクラフトビールで大活躍で、その個性の幅を広げ続けている。

スタウトビール

麦を深く焙煎したエールビール。香ばしさが甘みを誘い、チョコレートやコーヒーを連想させる。一般的に「黒ビール」と呼ばれるものでハードコアな見た目とは裏腹に軽めで飲みやすい。[/su_box]

……って、こんなこと書いているけれど、実はコヤナギ、チェコに来るまでビール飲めなかったの。

日本ビールはほんどピルスナービールなのだけれど、わたしには麦の臭いが甘ったるく、くさく感じて。そのくせ味は苦めで、でもなんかべたべたして……なにがのどごしだよ! と思ってたんだよね。

でもね、わたし、日本酒も苦手だったんだよ。

新潟出身だけど、その頃はまだお酒が飲めなくてね。でも大人になってから仕事で長野の蔵元を訪ねたとき、そこで出会ったどぶろくがおいしすぎて、そのまま日本酒が好きになったんだ。

だからビールも、本場に行けばきっと好きになるって分かってたんだ。

ビール工場見学 Pilsner Urquell Brewery

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さていよいよ世界を制した母なるピルスナービール「ピルスナー・ウルケル」の工場へ。ウルケルとはドイツ語で源を示す言葉で、日本語にしたら「元祖ピルスナー」ってところかな。この和訳だとダサいけど、ニュアンスは伝わるといいな。ちなみに「ピルスナー・ウルケル」といういい方もドイツ語読みで、チェコ語だと「プラズドロイ(Plzeňský Prazdroj)」というそうだよ。

施設はとても広く、バスを使って移動するところも。主に3セクションに別れていたよ。

見学・醸造所エリア

現在使用されている糖化槽は大きい!

模型やビデオなどを使ってビールの生産方法やピルスナーウルケルの歴史が学べるエリア。展示や見せ方の工夫が成されており、テーマパークのように見やすい。入場時に視聴するパノラマビデオや、2007年まで使っていたという醸造所でのプレゼンテーションも見やすく、全体的にスタイリッシュだ。

地下洞窟歴史醸造所エリア

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ピルスナーウルケル誕生し、冷蔵庫が発明されるまで使われていた洞窟がそのまま残されている。当時の出荷の様子や、貯蔵して醸造した場所、そして発酵させた大きな樽が残されており、いまも歴史的資料の意味も踏まえてビールを生産している。ここではなにより出来たての無濾過ピルスナーウルケルがいただける。世界でここだけの一杯だ。

瓶詰め工場エリア

とにかく広く、開放的

国民ひとり当たりのビール消費量が世界一のチェコ。そこで一番飲まれているピルスナーウルケルの実際の瓶詰め工場が見学できる。せわしなく行列を成して吸い込まれていく緑色の瓶たち(ピルスナーウルケルのもの)のほかに、アップルサイダー(シードル)なども同じ工場で生産されている。

OPTION:タッピング体験

注がれるビールが美しい

要予約だけど絶対にやって欲しいビール注ぎ=タッピング体験。チェコビールの特徴である横向きの「蛇口型」といわれるハンドルで、勢いよくビールが注がれることが特徴。最初に泡をつくって黄金のビールにフタをすることがポイント。失敗すると泡だらけになるけど、チェコには「ミルコ」といって泡を楽しむ飲み方もあるので、失敗しても「ミルコだ」と言い張ろう。お土産に名前入りの大ジョッキ(超うれしい)と無濾過のピルスナーウルケル(こちらも瓶に名前入り!)がもらえるの! ね、絶対タッピングやったほうがいいでしょ。

地下でIPAを作るレストラン Restaurant Purkmistr

なんだったかなーきっと鹿?

ランチはプルゼーニュの主要部から車で30分ほど行った場所にあるレストランで。ここはホテルやスパも兼ねており、地下には小さなブルワリーも。お料理は伝統的なチェコ料理で小さなグラスが色とりどりに並んだテイスティングビールが嬉しい。ガイドブックで見て食べてみたかった直訳して「水死体」というブラックジョークいっぱいのソーセージのピクルス「ウトペネツ」や、白っぽい牛ヒレ肉のシチュー「スヴィーチコヴァー」にはラズベリーソースが合う。前菜に食べたヤギチーズのサラダが忘れられないくらいおいしかったなぁ。

満腹のお腹をさすっていると、地下へ続く階段に手招きされた。そこには小さなブルワリーが!

レストランの地下にブルワリーが

少し蒸気で霞んでいる。もわっと暖かく感じるブルワリーの中でつくられていたのは、さっきおかわりしたIPA。ピルスナーウルケルは偉大な発明だけれど、それに頼ってばかりはいられない。ここでしか生まれない、新しい1杯をつくらなければ、とのこと。上面発酵が見られて良かった!

エシカルなアートホテルDesign & Music Hotel Mosaic House

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プラハ入り! 今夜の宿は不思議なオブジェに囲まれたアートホテル。でもとがってるだけじゃないんです。館内で使われた水はすべて濾過して植物や掃除の水に再利用したり、クリーンな電気を利用したり、環境に配慮したエシカルなホテルなのだ。また、いくつかの建物にまたがって、ユースホステルからペントハウスまで用意。ここに載せてる写真は1泊目のホテルスタイルの部屋のものだよ。

飲むだけじゃなくて毛穴から!? ビールスパBeer spa Bernard Prague

ビール大国チェコでは「ビールスパ」なるものがあるとか。もしかして暖めたホットビールに身体ごと浸かっちゃうってこと!? と興奮したものの、そういうことではなく、ホップを入浴剤としたぬるめのお風呂に浸かりながら、真横の蛇口からビールを注いで飲み放題、というもの。このスパでは入浴の他に岩塩の岩盤浴でデトックスできたり、サウナがあったりといろいろな楽しみ方が出来るよ。ちなみに、ここはホテルのスパナのだけど、スパだけの利用もできるみたい。お土産に瓶ビールをもらったよ。

プラハの街歩きとクリスマスマーケット

心なしかやはり洗練されている気がする

腹ごなしにプラハの街歩き。プルゼーニュとは比べものにならないくらい町が大きいので、どこを歩いているのか分からない。だから、このクリスマスマーケットもどこなのか分からず、ごめんなさい……。⇒ネットサーフしていて「ナームニェスティーミール(Náměstí Míru / 平和広場)」であることが分かりました! 途中、見た目はクラシックなバロック建築なのに中は大胆にリノベーションした近代的な建物を見たりしたよ。(オシャレなお店が入る場所ではあったけど、地下には庶民的なスーパーマーケットが入っていて、観光客向けではなく地元に根付いた場所なんだと思った)

「ヨーロッパでいちばん醜い塔」でアートなディナーRestaurant Oblaca of the Tower Park

プラハは「百塔の街」なんて呼ばれるくらい、美しい教会の塔がたくさん建っているプラハだけれど、夕飯は「ヨーロッパでいちばん醜い塔」と悪名高いジシコフテレビ塔へ。ここには高さ66mの場所にレストランがあるのだ。タワーの奇抜さに負けず劣らず、盛りつけや演出に一工夫あるアートなイタリアンだったよ。プラハの街を一望できる絶景でロマンチック。ユニークで洗練されたお料理と一緒に、いまプラハにいるんだなーって感動も味わえます。

エッセイ:進化するチェコ、のどごしで完成するビール、トラブルは逆らわないこと

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目が覚めたら銀世界だった。

何となく雪の気配を感じてカーテンを開けると、あわい朝の光に雪が浮かび上がる。

時計は朝の7時。チェコの太陽もいま起きたところって感じかな。今日は室内が多いから、軽装にして、でも、雪が降ったから厚着の方がいい? 困ったらコートの内側ににホッカイロをはりつければいいかと防寒対策を練る。そうそう、旅先ではどうしても緊張して便秘がちになってしまうので、朝ご飯でしっかり水分とフルーツをとるもの大切だ。外国の朝食には、必ずフルーツがあるから嬉しい。

今日はこのチェコ旅行でのまず最初の山場、ビール工場の見学だ。

昨日、小さなビール工場を見学したときはなんとなくビールが飲めたけれど、今日行く場所との差なんて、わたしに分かるんだろうか。

分からなくても、レポート書けるかな。

まぁいい、そのときはそのときだ。

トラブルは逆らわないのがいちばんなのだ。

***

工場の入り口といえば、入り口に守衛さんがいて社員証をかざしたり、トラックが往来しているイメージだったけれど、ピルスナー・ウルケルの正門といえば、まるで由緒正しい大学のようだった。そりゃ、ビール界では権威なんだろうけど……いや、ビールで権威なら飲酒界でも権威だよね、そう考えたら、この重厚感は必要か。ガイドさんが門に彫り込まれたエジプト文字の由来なんかを話している間、そんなことを考えていた。

門は立派で、敷地も広く、プルゼニュ観光の定番だと聞いていたけれど、そこは人っ子ひとりいなかった。現在稼働中の工場でもあるはずなのに、とっても静かで落ち着いている。今が午前中だからだろうか。決まった時間のツアーと予約だけで運営しているからかもしれない。

厚着のままレセプションルームに通されて、まずはプルゼーニュとビールの歴史について触れる。そもそも、プルゼーニュでは13世紀からビールを造っていたそうだ。といっても、それぞれ小さなブルワリーが独自に開発していただけでクオリティもバラバラ。当時のビールは上面発酵のエールビールで色も褐色。泡はないものもあった。ガイドさんの話に寄れば、あまりおいしいものではなかったそう。転機が訪れたのは18世紀、地域活性の一環として街を挙げてビールを造ることにしたそうだ。

新たに醸造所を建設し、ドイツからラガービール(下面発酵)技術者を呼び開発開始。プルゼーニュ地方で育つ麦とホップが高品質で、また、ヨーロッパとしては珍しく水が軟水だったことが功を奏し、見たこともない美しい黄金色のビールが出来たそうだ。そのビールに「ピルスナーウルケル」

また、今も新しいビールの開発は常に行っているとのこと。見学ルートの一部に小さな糖化槽のあるガラス張りの研究室も見ることが出来た。

建物を移動し、大きなエレベーターに乗り込む。ひとり暮らしのワンルームくらい広い。ヨーロッパで2番目に大きなエレベーターらしい。

到着するとテーマパークのエントランスのよう。円形のシアターでムービーを見ていたら、いつの間にか座席が回転していて目の前の扉が開いた。そこにあったのは歩きながらピルスナーウルケルが出来るまでを体感できる施設で、天井が高く開放的。それでいて照明は暗めで大人のための飲み物をつくっている色っぽさがあった。焙煎前後の麦をテイスティングがあったので早速トライ。焙煎前の麦は硬く、ぼんやりとした甘みを感じる程度だったけれど、焙煎後の麦はふっくらと軽い歯ごたえに変化しており、甘みが口に広がり、香ばしさが鼻から抜ける。これだけでもポリポリ食べれそうだ。焙煎の偉大さはっきりと感じることが出来た。

ぽたぽたピチョンピチョンという音響が響くブースをくぐる。地下深くからプルゼーニュの豊かな水をくみ上げているとのこと。ヨーロッパでは珍しい軟水なのだそうだ。ビールであっても水は柔らかい方がいいんだね。

次にあったのはホップの展示だ。黄緑色の花のつぼみのような形をしている。みずみずしいフレッシュな緑の香りがいい。この香りは大好きなのだ。麦の展示と同じく、砕いたホップの味見があったので試してみることにした。……苦っ! 香りとは裏腹に、あのビールの苦み! ホップのまりを2つに割ると、真ん中から黄色い粉が出てきた。これが、苦みと香りのもと。これだけ食べるとクセしかないけど、スパイスってそういうものだよね。

その後、新旧の糖化槽を見学した。古いタイルに囲まれた古い糖化槽も趣があってフォトジェニックだったけれど、今使用されている糖化槽の大きさと、何よりその美しさに圧倒された。まるでどこかの近代美術館のよう。部屋全体に漂う甘い香り。赤く光る銅の糖化槽から暖かみを感じ、温室のような大きな窓から雪に反射する日光を静かに受け止めるステンレスの貯蔵槽。こんな言い方変だけど、ずっと眺めていると心が整っていく気さえする。

***

移動してやって来たのは洞窟の中。冷蔵庫発明前に、下面発酵発酵の温度制御のため、地下に氷を運び込み、貯蔵発酵してた場所だ。ドーム型に掘り進められた地下道は、スロープを降りていくほど広くなる。出荷作業をしてたホールは体育館ほどの広さがあった。思わずわぁーと声が出て、両腕を広げてしまった。そのくらいの開放感があった。白い漆喰のような質感の壁には、岩肌を搔いて掘り進めた跡が残る。きれいに隅々まで手入れされた洞窟には地下独特の湿気臭さはない。それでも経年によってわずかばかり変色した下方に、この壁が見てきた歴史の深さを感じた。配線が頭の上を走り、必要最低限の照明が行き先を照らしてくれる。

高さ2.5m、直径2mを超えそうな大樽が並ぶ。これが貯蔵発酵用の樽だ。台に上って中を覗くことができる。表面には薄く泡が浮いている程度で発酵程度が分からない。この樽は洗って使い回していたそうだ。ふたには人ひとりが通れる穴があって、そこから入って洗っていたらしい。通る体験が出来たので挑戦したけれど、白人の成人男性が通りには狭すぎるように感じた。だいたい中に入ったら広いとはいえ、洗うのは大変だろう。体力的にも、精神的にも。

そしていよいよ、この見学ツアーの目玉に到着した。樽の中で貯蔵熟成した無濾過ビールをいただけるのだ。ピルスナーウルケルの樽生無濾過ビールをいただけるのは世界でもここだけ。この世に「プレミアム」の名がつくビールはたくさんあるけれど、ここで飲むビール以上に「プレミアム」なビールがあるんだろうか。

大きな手のおじさまが、樽についた小さなコックをひねる。グラスに勢いよくビールが注ぎ込まれ、グラスの中で渦を巻き、泡になる。グラスの角度をうまく調整して、泡を4センチほどつくったら、あとは黄金の液体で満たしていく。ビールの泡は、液体の酸化や炭酸が逃げることを防ぐふたという考えらしい。実際の効果は分からないけれど、とにかく注がれたビールは泡がなくなる前に飲むのがおいしい飲み方だそうだ。

室温5度に保たれた地下室でグッスリ眠っていたビールがわたしの手元に来た。表面張力のように泡がふわふわと揺れる。グラスを持って写真を撮っている指先が冷えた。暗くてピントがなかなか合わない。ほわほわの泡はいかにもおいしそうで、ガマンしきれず唇が吸い寄せられる思いだ。白い泡にダイブするとフサッと新雪のような柔らかさに包まれる。薫るのはホップのさわやかな香り。そのままグラスを傾けて、泡が守っている金色の液体を迎え入れる。最初に舌が感じたのは甘み。なにかが醸されたような豊かな甘みを追って苦みがやってきた。舌をつくような苦みではなく、甘みをまとめにやってくるような苦みだ。そして、最後はさわやかなわずかな甘みを残す。それは、軟水の後味なのかもしれない。

なんなんだこれは。

グラスを一度テーブルに置いて、冷静になるために写真を撮った。無濾過の証拠のような濁りが写った。甘みや苦みが、今まで飲んだビールよりはっきり感じた。これが無濾過の味なのだろうか。いままでビールが苦手で飲んでこなかったので比較が出来ない。ただ、これは苦手だったビールと違う、ということだけは分かる。

次はノドをならすように、ごくごくごくと飲んでみることにした。ビールが苦手な理由の1つとして、わたしは水分をごくごく飲むのが苦手だ。いつも口に含んでから、ひとくち分を飲み下す。だからいつも飲むのが遅くて(ちなみに食べるのも遅い)、それを特に悪いことだとも思っていないので、大切なひとくちを「ごく」の一瞬で飲み下すことを良しとするビールをどうかと思っていたのだ。しかしここはプルゼーニュ。郷に入ったら郷に従え。ビールの飲み方をしてみようと思った。

ごく。ごく! ごく!!

……! なるほど。これがのどごしか。ひとくち飲んだときにやってきた甘みと苦みと、最後の甘みがひとつになって「完成」した感じがした。これはこの飲み方をして「完成」だと思った。ビール、おいしいな!

その後に体験したタッピング体験は至福の瞬間だった。注ぎ方ひとつでビールが持つ甘みと苦み、何より香りの深さが変わる。残念ながらわたしは下手すぎて思い通りの注ぎ方は出来なかったけれど、わたしがカウンターの中には入れる機会は、ここに来ない限りないだろう。蛇口型の横向きハンドルを握れただけで嬉しい。ここで40年ビールを注ぎ続けてきたタッピングのプロが入れてくれたウルケルはおいしい。アペタイザーはチーズとハム。たくさんの種類があり、特に「さけるチーズ」のような食感のチーズを一口大に結んで、キムチ味にしたようなチーズがとってもおいしかった。なんていう名前なんだろう。今でのお土産で買ってくればよかったって後悔してるよ。

***

ホテルをチェックアウトしてバスに乗り込む。今日からプラハ入りだ。ランチは途中のレストランとのことだけど、さっきのタッピング体験でチーズもビールもたらふくいただいてしまったから、まったく食べられる気がしない。午前中からビールをあおったせいでふわふわと夢心地だ。バスの振動が気持ちいい。苦手だったビールですばらしい体験が出来た感動に浸って遠のくプルゼーニュの街を思う。まぶたを閉じて目を開けたら、バスは目的地に到着していた。

あたりに大きな建物が見当たらない。鳥の鳴き声が聞こえる小さな観光客向けの集落のようだ。ホテルも併設した複合施設でランチをいただく。大きな黄色い倉庫のような建物に、小さなドアがついている。中に入るとオーク色をした暖かい内装でギャップがあった。どこからともなく陽気なアコーディオンでも聞こえて来そうなアットホームさだ。カラフルなチェックのテーブルクロスが、よけいそう思わせてくれるのかもしれない。

お料理のチョイスはチェコ政府観光局日本局長のマルチナさんにお願いした。というのも、みんなさっきのビールタッピングで楽しんでしまったため空腹を感じていなかったのだ。仲間が多いと心強い。

「日本局長」という役職を聞いて年配の方が来るかと思っていたが、マルチナさんは若干30才だ。前任者は還暦越えの日本人男性だったせいか、日本に対してチェコのトラディショナルな面を中心にアピールしてきた。でも、チェコ生まれのマルチナさんはそれだけじゃないと言っている。確かに、歴史的な建造物は世界遺産に登録されたものもたくさんあって見応えがある。けれどチェコはいまも進化していてたくさんの面白い挑戦をしている。そういう側面も知って欲しいということだった。

ここでいただいたのはトラディショナルなチェコ料理と、ここで作っているという挑戦的なビールだった。6つの小さなグラスが並ぶテイスティングボトル。色は黄色から黄金、褐色のグラデーションで、よく見ると濁りや透明感にも違いがある。味は甘みや苦み、香りと深み、それぞれに個性があった。それぞれがそれぞれにおいしいけれど、透明感のあるピルスナーウルケルをごくごくと堪能した後だったから、がつんと苦みの存在感があるIPAが今の気分だった。おかわりで大ボトルをオーダーする。

テーブルにお料理がやって来た。たくさんの白いプレートが並び、その中身はほとんどがチーズかお肉だ。ただその表情はさまざま。チーズは焼いたもの、揚げたもの、肉も煮込んだものから低温調理されたもの。日本だったら「タンパク質」とまとめてしまうけれど、チェコでは野菜が作りにくいので肉とチーズ料理が発達してきた。といっても生野菜が使いにくいと言うだけで、牛肉のシチュー「グラーシュ」にはたくさんのパプリカが溶け込んでいるし、ピクルスも豊富。ホイップクリームには細切りのショウガが含まれていて、ローストビーフに乗せて食べると淡泊な肉のうま味をホイップが膨らませてショウガが締めてくれる。トーストしたバケットに生のニンニクを塗りつけて、挽肉のタルタルを乗せるとすかさずビールを飲みたくなる。気がつけばけっこう食べていた。わたしのお腹はとうとう四次元とつながったのかもしれない。

食事の後に地下のブルワリーを見学させてもらった。そこではさっきのIPAが醸されている最中で、エールビールの「上面発酵」が見学できる。小さなブルワリーだから出来るビール造りをしていくことが大切だ、といったことを語っていた。そう挑戦だ。チェコだって、ビールだって、いまも一歩ずつ進化しているのだ。

***

ランチでも結局それなりに飲んでしまったため、バスで目を開けたら、また、すでにプラハだった。しまった、バス移動だから都市部に入っていくグラデーションを見ようと思っていたのにすっかり飲まれている。

バスから眺めたプラハの印象はたくさんのクラクションの音だった。両サイドに趣のある建物にはさまれて、石畳の道路は物理的に肩身が狭く、そこらじゅう渋滞していた。おまけにあちこち路駐の車だらけだ。これだけ建物があれば、駐車場を作るのは難しそうだもんな。いらだっているドライバーたちをバスから見下ろし、他人事と構えていたらバスが止まり、扉が開いた。え? ここで? 見たところ道路のど真ん中のようだったけど、目の前の建物のが今夜のホテルらしい。後ろからは激しいクラクションが聞こえる。今度はどこかの誰かに向けたものではなく、我々にバスにむけたれたところだ。もうすこし移動した方がいいんじゃないかと戸惑っていたが、とりあえず降りるように促された。バスを降り、全景を見ると確かに、ここ以外にバスを止めるに良さそうな場所はない。どこを見ても止められないベルトコンベアーのように車が連なっている。どうせ止めるならここだろう。ならば急いで荷物を下ろすしかない。大量のクラクションを浴びながら、その半分は街の作りのせいでしょと責任転嫁しつつ、重いトランクを引きずる。とりあえずプラハは、マンハッタンどころじゃなく騒がしい。

そうそうにチェックインを済ませ、次に向かうのは「ビールスパ」。水着一式を持って出発だ。

途中渋滞に巻き込まれながら、到着したのは別のホテルの前。ここの地下でビールスパが楽しめる。扉を開けると熱気に包まれた。早くコートを脱いで水着になりたい。この日はわたしたちの貸し切りだった。

樽を模した浴槽にホップを追加して浸かることが出来る。向かいあって2人が入るようだけど、なんかそれだけじゃ絵的に淋しいから、1つの浴槽に4人入ってみんなで写真を撮った。カタログで見た写真は白人女性が入っていていかにも「Spa」って感じだったけれど、東洋人が入ると一気に「温泉」風情を醸し出すねと笑った。浴槽内を循環するバブルが水中のホップを舞わしている。浴槽のとなりにはビールジョッキが置いてあり、ビアサーバーから自由に注いで飲むことが出来る。もちろんハンドルは横向きだ。ピルスナーウルケル工場でならったタッピングの要領で注いでみても、わたしはやっぱりうまく注げない。さっきはもう注ぐことがないからいいと思っていたけれど、早くもスキルが求められるとは思わなかった。上手に注げないとくやしくて何度も練習したくなる。ランチでふくれたお腹も収まらないうちに、何杯もビールを飲んだ。今日は朝から飲み続けている。そういう日なのだ。

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スパから出て、歩こう、ということになった。ディナーまであと1時間だという。このままではとても食べられる気がしないので、歩くという提案はすばらしいものに感じた。それに、プラハに来てまだクラクションしか聞いていないしね。

渋滞も、観光客もいないプラハの街並みをすり抜ける。日はとうに暮れているけれど、時間は18時頃だ。地元の人の速度で足早に歩くマルチナさんについて歩いた。淡々とした表情で自宅に帰っていくのは近所の人だろう。なだらかな坂を登って、建物の1階には飲食店の灯りが少し漏れている。落ち着いた街並みがホッとした。

10分くらい歩いて、立派な教会が見えてきた。ミール広場(平和広場)というところだ。ここにもクリスマスマーケットが開かれている。15分の自由時間となった。ここのツリーも立派だ。音符が舞っている。クリスマスマーケットの装飾もプルゼーニュのものと比べて多い。人出もずっと多かった。ここにもやっぱり鍛冶屋さんがいて、幸せの鐘があって、キリスト生誕の模型ベツレヘムがあった。たくさんのマーケットを眺めていて、なにか欲しいけれど、なにを買っていいか分からない。まだ旅は2日目だから荷物になるものだと困るし。すると、店頭に錆びた色が並んでいるお店を見つけた。お店の前では小さな女の子が指をくわえて眺めている。その不思議な風景に吸い寄せられて近づいてみると、店頭から甘い香りが漂った。そうかこれ、チョコレートだ! これなら1つ欲しい。いちばん小さい「コカコーラの栓抜き」を1つ買った。70コルナだったから、日本で350円くらい。わら紙の入ったかわいらしい包装にリボンまで巻いてくれた。こういう露天で買い物をするのが、わたしは大好き。それが異国ならなおさら。1つ経験値を積んだ気がするのだ。そのままもう1つなにか欲しいなとマーケットを物色した。ホットワインでもいただきたい。スパイスのたくさん入った白のホットワインを買った。温まったアルコールの香りがツンと鼻をつく。それがいい。ホットワインを持つとカメラが構えられなくなる、それも、いい。

***

その塔は開き直っているようだった。

テトラポットを串刺した様な奇っ怪な形状に、赤と青の照明を身にまとい、アクセサリーはのっぺらぼうの赤ちゃんが11体。その潔さはストリートファッションでドヤ顔をかます常連のようで、さすがのひと言以外許されない。この塔、挑戦しかしていない。1階のエントランスは円形のUFOのような受付で、ノスタルジックな未来演出だ。その裏はクロークになっており荷物とコートを早々に預けられる。エレベーターで上がるとレストランエントランスに到着。きっと、あのせり出したテトラポットの1ブロックに降り立っているのだろう。そこから見える風景はちょうどプラハ城が見える方向で、プラハの街を一望している感があった。壁には世界のタワーの名前が刻まれていて、わたしが登ったトロントのCNタワーの名前もあり、嬉しくなった。(残念ながら東京タワーは見つけられなかった)

朝から飲み続けていてまったく空腹を感じていなかったので、前菜はスキップした。白ワインをいただきながら(結局飲んでる)、みんなが注文したものの写真を撮る。わたしが選んだメーンディッシュは鱒のムニエル。チェコには海がないから、お魚料理は川魚だ。かつてチェコはクリスマスに鯉を食べていたそうだが、それも魚が貴重だったため。事前に下調べしたチェコのガイドでは「魚料理は避けるべき」とあったけれど、ここの鱒のムニエルは、柑橘系の泡のソースが食材のおいしさを立たせてくれた。鱒の下にはたくさんの柔らかい白アスパラ。チェコは進化しているのだ。

注文してみたかったものがあった。カクテルのコスモポリタンだ。ドラマ「セックスアンドザシティ」で有名になった、甘いけれどきゅっと強めのカクテルを、このタワーでいただくと面白い演出がついてくる。底が広めのワイングラスに赤いコスモポリタンが入って、最初にサーブされた。そのあとを追って、細長いボトルから黙々と白煙をこぼしおとしながらやって来た。ボトルを振るうと煙の勢いは増し、それをグラスに注いでくれる。華やかな香りが広がる。煙はグラスの中で落ち着いて、あっという間に消えてしまうのでまずはひとくちいただこう。ラベンダーのピックをさっとよけて、モワモワの中に顔をつっこむ。わ、これドライアイスの煙だから息が出来ない。奥ゆかしく香りを楽しむやつだ、凄くいい香りがするのに、吸い込めない。魅惑の煙はあっという間にしゅわしゅわと揮発して消える。でも、香りは残っている。

ビールもいいけどカクテルもいいねとうっとりしていたら、マルチナさんが「みんなに謝らなければいけないことがあるの」と口を開いた。トラブルでホテルが今日1泊分しかとれていなかったというのだ。明日もプラハ泊。2人は同じホテルで別の部屋になり、6人は別の場所に移動し、相部屋にして欲しいとのこと。希望者は下見が出来るとのことで手を上げた。

食事を終えてバスに乗り、ホテルに着いた。明日の「移動先」はホテルの目の前だった。扉を開けると外からは想像がつかない階段に迎えられ、なにか物語がはじまりそうだった。エレベータは最上階を目指す。ペントハウスだ。そこは3つのベッドルームと3つのバスルーム、それにリビングとロフトがあった。プラハでこんな暮らしが出来たらステキだな思って、迷わず移動に立候補した。トラブルはいつでも驚きと一緒に楽しさを連れてきてくれる。逆らわないのがいちばんなのだ。

おまけの1枚:

雪化粧したプルゼーニュの朝。極寒の歩道橋の上で奇跡の一枚を狙うブロガー。

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Special Thanks:チェコ共和国観光局、Linkトラベラーズ

“冬こそチェコへ行こう”リスト

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